抄録
ペースメーカー植込み術を施行した老年者洞不全症候群95例の予後の検討を行った. 95例を生理的ペーシング群32例 (P群) と心室ペーシング群63例 (V群) に分類した. P群においてV群よりも発作性心房細動の発生率 (28%:71%, p<0.01) および慢性心房細動への移行率 (9%: 30%, p<0.05) は低かった. ペースメーカー植込み前に洞性徐脈や洞停止, 洞房ブロックのみを示した徐脈群と徐脈と主に心房細動の上室性頻脈性不整脈も示した徐脈頻脈群にも分類し検討した. 徐脈群のP群では慢性心房細動への移行例はなかったのに対し, V群では30%で慢性心房細動へ移行し, 徐脈群での生理的ペーシングの心房細動の予防効果は明らかであった. しかし, 徐脈頻脈群では移行率はP群19%とV群31%で抑制効果は明らかではなかった. 塞栓症の発生はP群で1例 (3.1%) だけであったが, V群では16例 (25.4%) に認められ, その中の9例は塞栓症に関連して死亡した. 生命予後においてもP群がV群より良好であったが, 対象例が高齢のため, 心臓死, 塞栓死以外の死亡も少なくなく, 症例を増やしての検討が必要であると考えられた. 以上より, 老年者洞不全症候群においても, 可能な限り積極的に生理的ペースメーカーを植え込むことにより, 心房細動や塞栓症の発生を予防でき, 生命予後も改善すると考えられた.