日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
健常高齢者の脳MRI所見と高次脳機能の関係について
笠原 洋勇丹野 宗彦山田 英夫遠藤 和夫小林 充柄澤 昭秀
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1993 年 30 巻 10 号 p. 892-900

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抄録

加齢によって起こるとされている脳のMRI所見の相互間の関係および高次脳機能との関係を明らかにすることを目的として以下の研究を行った.
老年健常ボランティア, 男性41名, 女性77名の計118名を対象として頭部MRI, 脳波検査, ベントン・テスト, 面接を行い, その結果を検討した. 健常老人は脳血管障害, 頭部外傷, 痴呆などの脳障害や既往がなく, 存宅で日常生活を支障なく送っている標準的な老人とした. その過半数は1982年より本研究に参加しているものである. MRIは1.5T超伝導装置を用いて行い, T1強調像, プロトン密度像およびT2強調像を撮影した. 12項目につき基準を定めて, 3名の医師により視覚的に判定, ランク分けを行った.
T2高信号病変 (T2HSI) は全体では69.5%に認められ, 加齢とともに増加した. T2HSIの出現部位は基底核61.9%, 視床39.0%, 頭頂葉37.0%, 側頭葉12.7%, 橋部8.5%であった. これら病変の内T1強調像で低信号を示す lacunar infarction (LI) をよ24.6%に認められ, 上記同様に加齢とともに増加した. 脳室周囲の高信号域 (PVH) は38.1%に見られ, やはり加齢に伴って増加した. 一定基準に従って判定した脳の萎縮も含めて, これらの所見は年齢との間に深い関係が見られた. しかしベントンテストの結果はT2HSIと最も関係した. 即ち, T2HSIの数が増すに従ってテスト結果の誤数が増え, 正確数が減少し, 特に歪み, 大きさの誤り, 左右の誤りが生ずるなど, 認知機能に影響することが観察された.
脳の萎縮をT2HSI, LI, 脳波異常の有無で群間比較を行うと, T2HSI(-), LI(-), 脳波正常の群は, 他の群に比し有意に軽く, 一見加齢変化と考えられる現象もなんらかの要因により助長されていることが示唆され, 同時に高次脳機能にも影響を与えていることが伺われた.

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