日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老齢ニホンザルについての神経病理学的研究
延髄薄束核に見る軸索ジストロフィー
藤澤 浩四郎
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1993 年 30 巻 10 号 p. 885-891

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抄録

ヒトを含めた哺乳類薄束核に軸索ジストロフィーが加齢性変化として普遍的に出現することは良く知られた事実であるが, 灌流固定された組織を用いて電子顕微鏡的に良く調べられているのは主としてシロネズミについてであり, ヒトについては当然の事ながら剖検脳についてのみである. この度28歳の老齢ニホンザルー頭についてこれを詳しく調べる機会があった. その結果, この病変に動物種を超えて共通した一連の基本的形態的変化を再確認した以外に, シロネズミなどの場合とは異なる, しかも重要な超微構造的特徴がニホンザル軸索ジストロフィーに存在することを見出した. ニホンザル薄束核に出現するスフェロイド (軸索ジストロフィー) はシロネズミに見るものより格段に大型のものが多かった. 軸索終末の巨大腫脹の基礎が滑面小胞体系の大規模な局所的増生と蓄積にあることはシロネズミの場合と同じであるが, ニホンザルに於いてはこれが質量共に一層顕著であった. 一方, シロネズミで大型スフェロイド中に頻回に遭遇する所謂 coiled tubular rings, layered loops of membranes などの特徴的「二次的構造物」はニホンザルでは見当たらず, 逆にシロネズミでは嘗って遭遇したことのない「高電子密度均質無構造性顆粒」や「ネジ釘状直繊維性類結晶状構造物」とでも表現すべき特徴的な形態を示す構造物が軸索腫脹の初期から「一次的に」出現しており, 殊に前者は大規模に増生・集積し, これが軸索腫大を支える重要な要素になっていた. シロネズミ・ニホンザル・ヒトと並べて比較神経病理学的立場から軸索ジストロフィーを超微形態学的に研究する時, 本病変に対して新しい角度から光を当てることができ, その病態発生と本態とについての理解と洞察が一層深められた.

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