高齢者脳血栓症患者のMR画像でみられる変化と加齢, 痴呆との関連を知る目的で, 初発脳血栓103例 (脳血栓群) のMR画像を age-match した危険因子群 (脳梗塞の既往がなく, 高血圧/糖尿病を有する37例), 非危険因子群 (いずれもない78例) の3群で比較検討した. 脳血栓群は発作後3カ月以内のMR (T2強調) 画像で, 検討項目は, (1)責任病巣 (分布より大脳皮質型, 半卵円中心型, 内包-放線冠型, 脳幹・小脳型), (2)脳室周囲高信号 (PVH: 広がりより Rims/Caps, Patchy, Diffuse), (3)深部点状病変 (SL: 出現数より0, 1~3個, 4個以上), (4)無症候性脳梗塞, (5)脳室拡大, (6)皮質萎縮 (視覚的に mild, moderate, severe) であった. 脳血栓群の責任病巣では内包-放線冠型 (46例) が最も多く, 非危険因子群との比較ではPVHの広がり, 無症候性脳梗塞の頻度, 皮質萎縮の程度に関して有意差を認めた. 年代別にみると加齢とともに脳血栓群では広範なPVH, 多発SLが増加し, 高度な皮質萎縮は非危険因子群でも有意に増加した. 無症候性脳梗塞, 脳室拡大は60歳代より漸増傾向を示したが, 有意でなかった. 痴呆の有無, 程度をDSM-IIIRおよび改訂長谷川式痴呆スケールで評価すると, 痴呆は40例 (78例中) にみられ, その頻度は加齢とともに増加した. 多変量解析数量化II類より痴呆に影響するMRI変化は, 強い順からPVH, 脳萎縮 (脳室拡大と皮質萎縮を含む), 責任病巣, SLとなった. 以上より, 加齢とともに広範なPVHが出現し, 脳萎縮が進行した結果, 血管病変を有する高齢者では痴呆を来しやすいことが示された. また既に多彩な変化をもつ老人脳では脳血栓症に随伴する変化が痴呆のごとき症状を修飾する可能性のあることが示唆された.