日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
手術によって著明な日常生活動作の改善を認めた老年者 vanishing lung の1例
寺本 信嗣福地 義之助折茂 肇
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1994 年 31 巻 12 号 p. 975-980

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抄録
進行性の気腫性肺嚢胞 (vanishing lung) を呈し, 併発した気胸によって, ベット上安静で寝たきりの状態にあった71歳の老年者に肺嚢胞切除手術を行い, 手術後3カ月で自立した生活が営めるまでに回復した. 手術前に比較して, 安静時血液ガス (空気呼吸下: PaO2(前)54.6→(後)75.0(mmHg), PaCO2(前)55.7→(後)51.5(mmHg)), 安静時肺機能 (努力肺活量(前)0.97→(後)1.70(L), 1秒量(前)0.55→(後)0.93(L))ともに改善したが, 肺換気血流シンチグラム上は明らかな変化を認めなかった. 従って, 手術後, 呼吸機能の改善を認めた要因は多発した気腫性肺嚢胞を除去したことにより肺葉単位の局所間 (interlobar) の換気/血流不均等分布の改善ではなく, 正常肺組織の圧迫解除や極度の肺過膨張の軽減による横隔膜運動の改善などに伴う肺葉内局所間 (intralobar) の換気/血流不均等分布の改善によると考えられた. 老年者の呼吸器外科手術については, 年齢, 術前呼吸機能などについて必ずしも一定の基準はないが, 本例のように手術後に日常生活動作の拡大を期待できるものでは, 手術内容を十分に考慮した上で, 積極的な試みも重要と考えられる.
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