抄録
老年者とストレスについて, 基礎的および臨床的立場から, これまでわれわれが行ってきた研究を中心に述べた.
基礎的研究として加齢とストレスに関する免疫神経内泌学的研究の一端を示した.
ストレスに関連して副腎皮質から cortisol と dehydroepiandrosterone-sulfate (DHEA-S) が分泌され, 尿中の17-OHCSおよび17-KS-Sとして測定される. この両者の分泌動態を分析することによって, ストレスと加齢の病態生理を客観的に評価することができること, また両者のアンバランスによって, ストレス関連疾患や老化現象が引き起こされることなど具体的データを示しながら述べた.
臨床的研究としては, その発症や経過にストレスが密接に関係するストレス関連疾患 (心身症, 神経症, うつなど) につき, 参考事例をあげ, 老年者ゆえに留意しなければならない点を指摘した. 心身症の代表的疾患としての消化性潰瘍, 特に老年者の潰瘍症について多くの資料をもとに述べた. そのほか過敏性腸症候群, 呑気症, 神経性腹部膨満症, さらにうつ (うつ病およびうつ状態) について老年者として考慮を要する点をあげた. また膵癌にうつの合併が何故目立って頻度が高いかについて, われわれの研究結果を示した.
最後に老年者のストレス関連疾患の治療にあたっては, 心身両面からの的確な全人的アプローチがきわめて重要であることを強調した.