日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者の入浴事故死の医学的および社会的検討
奈良 昌治谷 源一小松本 悟
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1994 年 31 巻 7 号 p. 532-537

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抄録
栃木県における人浴事故検死例の統計的考察を行うことができたのでここに報告する. 1978年より1992年までの15年間の栃木県警察管内において届出があり, 検死を行った入浴事故死総数1,348人を対象とした. 入浴事故死の年次別推移を検討し, 入浴事故死が増加している事実をここに報告した. さらにその要因についても若干の考察を加えた. 男性の入浴事故死の総数は793人であり, 女性は555人である. その比は男性1.43に対して女性1.0であり, 男性に多いことが明らかである. 15年間にほぼ3.5倍に増加した. 入浴事故死は, 圧倒的に冬期に多く, 最高値の12月は最低値の8月の7.3倍である. 平均気温の変化の曲線と月別死亡数が全く逆の相関にあったことは極めて注目すべき事実である.
今回の研究に示したように, 入浴事故はこの15年間, 確実に増加の傾向を示していることが明らかとなった. 入浴中の事故死の増加理由は, 高齢者の人口比率の増加, 核家族化の進行, かつ内湯の普及などの諸条件が考えられる. 最近は都会ならず郡部でも核家族化が進み, 地方においても昔のような大家族が少なくなっていること, さらにこれに加えて老齢人口の増加が, 入浴事故の増加に関係していると考えられる. また高齢者においては糖尿病などに起因する循環障害が存在しているため, 入浴負荷による心機能などへの影響が脳ないし心臓循環にさらに障害を及ぼすものと考えられる.
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