抄録
痴呆の発症リスク要因を明らかにするため, 愛知県M町でコーホート内症例対照研究を実施した. 症例群は昭和54・55年に実施した高齢者総合健康調査の受診者のうち, 平成5年4月時点に痴呆と同定された19名である. 対照群は性・年齢 (±1年以内), 居住地域を対応させ症例1名に対し2名を上記総合健康調査受診者から無作為に選定した. オッズ比による検討の結果, 13~14年前の身体的精神的状況および生活習慣と, 痴呆発症との関連は以下のようであった.
1. 痴呆発症リスク有意上昇要因は, 手指の使いにくさ, 入れ歯使用, 日頃話す機会が少ない, 暇な時間が多い, 友達が少ない,「29-17」の減算不可である.
2. 痴呆発症リスク上昇傾向要因は片側手足麻痺あるいは首・肩こりの場合である.
3. 痴呆発症リスク有意低下要因は運動習慣ありである.
4. 喫煙習慣と睡眠薬常用は比較的大きなオッズ比であったが, 痴呆発症と有意に関連していない.
5. 今回の分析で得られた7つの有意なリスク上昇要因 (「手指の使いにくさ」「入れ歯の使用」「日頃話す機会が少ない」「暇な時間が多い」「友達が少ない」『「29-17」の減算不可』「運動習慣なし」) の保有数が多くなるにつれて, 痴呆発症よリスクは明らかに上昇すると考えられた.