日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
31 巻, 8 号
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  • 山口 登, 青葉 安里, 常泉 智弘, 高木 博敬, 千嶋 達夫, 酒井 隆, 根岸 協一郎, 諸川 由実代, 上村 誠, 竹下 貴史, 太 ...
    1994 年 31 巻 8 号 p. 591-595
    発行日: 1994/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年期うつ病に見られる食欲低下にともなう低栄養状態は, 高齢者の身体的有病性の高さや身体的予備能力の低下と結び付き, 生命的危機状態に至りやすい. また, 貧困, 罪業, 心気などの妄想がしばしば認められ, 特にコタール症候群でみられる否定妄想や離人感も出現しやすく, その結果として自殺念慮を有する割合も高くなる. さらに, 遷延化しやすく, それに伴う治療薬物の増量および長期投与は, 薬物有害反応の増加に結び付きやすい. このような場合には, 電撃療法の適応が考慮されるが, 通常の電撃療法で引き起こされる全身けいれんによる身体への悪影響 (骨筋肉, 心血管, 呼吸器系など) が無視できないため, 全身麻酔下無けいれん電撃療法を試み, その有効性と安全性を調査した.
    対象は聖マリアンナ医大神経精神科病棟入院患者で, DSM-III-Rによって大うつ病と診断され, 全身酔下無けいれん電撃療法を施行された26 (男9, 女17) 各, 55~79歳である. 臨床症状の評価は, Hamilton うつ病スケールを用い, 施行直前と最終施行後に評価を行った結果, 全例において得点の有意な減少すなわち臨床上明らかな改善が認められた. 症候別改善率をみると, 抑うつ気分, 精神運動抑制, 不安焦燥, 自殺念慮, 心気症状, 不眠の各症状は, 高率に改善しており, 特に, 自殺念慮に関しては改善率100%であった. 併発症としては, 健忘 (記憶障害) 16名, せん妄3名, 一過性不整脈1名が認められたが, 呼吸障害, 骨折などの骨筋肉系障害など致命的, 永続的な障害は認められなかった.
    以上より, 各症例ごとに適応を十分検討したうえで, 安全性に配慮した全身麻酔下無けいれん電撃療法は老年期うつ病に対する一治療法として有用であると考えられる.
  • 若年者との比較
    寺野 隆, 小林 悟, 田村 泰, 吉田 尚, 平山 登志夫
    1994 年 31 巻 8 号 p. 596-603
    発行日: 1994/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    魚脂中に多く含まれる多価不飽和脂肪酸の中でもとりわけエイコサペンタエン酸 (EPA) が血清脂質改善, 血小板凝集能の抑制, 赤血球変形能の改善, 血液粘度の低下作用など多岐に亘る作用により抗血栓, 抗動脈硬化作用を発揮することが近年明らかとされつつある. 高齢者では明らかな症状を認めず一見健常に見える者のなかにも, 脳のMRI (Magnetic resonance imaging) をとると多発性の脳梗塞を認め, 血栓症予備群ともいえる者が多い. 今回我々は, 高齢者における血栓性疾患進展予防に対するEPA投与の有効性を見るため, 少量EPA投与による血小板, 赤血球機能の変化を検討した. 老人保健施設に入所し, 生活環境に適応し同じ給食を食べ, 特に治療を受けておらず, 明らかな脳血管障害の既往歴を有さない36名の高齢者 (平均年齢78歳) を12名ずつ3群に分け, EPAを多量に含む魚油濃縮物 (1capにEPAを84mg含有) を各群に0, 3または6cap/day, 1カ月間連続投与し投与前後の血漿脂肪酸構成, 血小板凝集能, 全血粘度, 赤血球変形能を測定した. コントロールとして若年者 (平均年齢41歳) に同じカプセル6capを1カ月間投与し血漿脂肪酸構成の変化を高齢者と比較した. 老人施設の給食は一週間分のメニューを分析し, 一日の脂肪酸摂取量 (リノール酸, アラキドン酸, EPA及びDHA) を算出した. 魚油濃縮物1カ月摂取 (EPA換算で0.25~0.5g/day) により, 高齢者では血漿総脂質分画のEPA含量は用量依存性に増加し, それに伴いADP, コラーゲンによる血小板凝集能の抑制及び赤血球変形能, 血液粘度の改善が認められた. 高齢者では若年者に比し少量の魚油濃縮物投与により血漿中のEPAの増加が見られ, これに伴い血小板, 赤血球機能の改善が見られた. EPAを多量に含む魚油濃縮物は副作用なく長期間の使用が可能であり, これら血球の機能の改善は高齢者での血液の安定化に寄与し, 脳血管障害を始めとする血栓性疾患の発症予防に期待が持てる.
  • コーホート内症例対照研究成績
    岡本 和士, 大野 良之
    1994 年 31 巻 8 号 p. 604-609
    発行日: 1994/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    痴呆の発症リスク要因を明らかにするため, 愛知県M町でコーホート内症例対照研究を実施した. 症例群は昭和54・55年に実施した高齢者総合健康調査の受診者のうち, 平成5年4月時点に痴呆と同定された19名である. 対照群は性・年齢 (±1年以内), 居住地域を対応させ症例1名に対し2名を上記総合健康調査受診者から無作為に選定した. オッズ比による検討の結果, 13~14年前の身体的精神的状況および生活習慣と, 痴呆発症との関連は以下のようであった.
    1. 痴呆発症リスク有意上昇要因は, 手指の使いにくさ, 入れ歯使用, 日頃話す機会が少ない, 暇な時間が多い, 友達が少ない,「29-17」の減算不可である.
    2. 痴呆発症リスク上昇傾向要因は片側手足麻痺あるいは首・肩こりの場合である.
    3. 痴呆発症リスク有意低下要因は運動習慣ありである.
    4. 喫煙習慣と睡眠薬常用は比較的大きなオッズ比であったが, 痴呆発症と有意に関連していない.
    5. 今回の分析で得られた7つの有意なリスク上昇要因 (「手指の使いにくさ」「入れ歯の使用」「日頃話す機会が少ない」「暇な時間が多い」「友達が少ない」『「29-17」の減算不可』「運動習慣なし」) の保有数が多くなるにつれて, 痴呆発症よリスクは明らかに上昇すると考えられた.
  • 井上 一郎, 高梨 敦, 井上 敏明, 山内 亮, 児玉 宣哉, 寺田 満和, 小根森 元, 末永 健二, 若本 敦雄
    1994 年 31 巻 8 号 p. 610-615
    発行日: 1994/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    人口に占める高齢者比率が19.6%と高い高齢者地域において永久ペースメーカー植え込みをおこなった連続116例を対象に, 臨床的特徴, ペースメーカーの特徴, 生命予後, 生活予後の検討を行い, 今後の高齢者社会に向けてペースメーカー治療の有用性を明らかにした. 平均年齢は74.3歳であり, 65歳以上の高齢者が88.8%を占め, 80歳以上の超高齢者も24.1%に認められた. ペースメーカー植え込み前の症状では失神が最多であり, 救急患者として搬送されてきた症例が35%であった. ペースメーカー植え込みの原因疾患としては洞不全症候群と完全房室ブロックが各々半数を占め, 徐脈性心房細動は少数であった. 生理的ペーシングと心室ペーシングが各々半数を占めていたが, 最近では生理的ペーシングが8割弱を占めるようになってきた. 平均追跡期間26カ月で, 追跡調査が可能であった107例中, 死亡は4例のみであり, 悪性腫瘍が5例, 脳卒中は2例に発症した. 生存予後をNYHA心機能分類を用いて検討すると, ペースメーカー植え込み後にはNYHA3度から1度へ改善し, 72.5%の症例がペースメーカー植え込み後には社会復帰していた. ペースメーカー植え込み後の死亡率が低値であり, Quality of Life の改善も良好であったことより, 高齢者におけるペースメーカー治療の有用性が明らかになった.
  • 池田 幸雄, 山下 英敏, 高松 和永, 橋本 浩三
    1994 年 31 巻 8 号 p. 616-620
    発行日: 1994/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    目的: 近年, 糖尿病性早期腎症の診断法として尿中アルブミン濃度の測定が広く用いられている. 今回, 筆者らは, 老年者糖尿病患者における微量アルブミン尿の臨床的意義を検討するために, 糖尿病患者を老年者群および若壮年者群に分け, 両群における臨床背景と微量アルブミン尿の頻度について比較検討した. 対象と方法: 対象は, 現在, 当院糖尿病外来にて加療中のインスリン非依存型糖尿病患者167例で, 65歳以上の老年者群81例 (平均年齢: 72±5歳, 男/女: 31/50) と, 65歳未満の若壮年者群86例 (平均年齢56±8歳, 男/女: 49/37) に分けた. 両群において, 肥満度, 空腹時血糖値, HbA1C濃度, 血漿脂質濃度, 血中C-ペプチド濃度, 高血圧の頻度, 腎症の指標としての尿中アルブミン濃度およびその他の血管合併症の頻度を求めた. 結果: 老年者群は, 若壮年者群と比べて, 推定罹病期間 (10±7 vs 9±7年), Body Mass Index (24.3±4.1 vs 23.9±3.5kg/m2), 空腹時血糖値 (142±38 vs 144±40mg/dl), HbA1C濃度 (7.4±1.6 vs 7.8±1.6%), 血漿コレステロール濃度 (203±34 vs 212±46mg/dl), 血漿中性脂肪濃度 (117±57 vs 121±67mg/dl) には有意差を認めなかったが, 微量アルブミン尿 (尿中アルブミン濃度30以上300mg/g・Cr未満) を有する頻度が有意に高く (43.2 vs 20.0%, χ2=10.39, p<0.01), 大血管障害 (脳血管障害, 虚血性心疾患, 閉塞性動脈硬化症), 高血圧の頻度も有意に高かった (29.6 vs 10.5%, χ2=9.66, p<0.01, 42.0 vs 24.4%, χ2=5.82, p<0.05). 考察: 老年者糖尿病患者の微量アルブミン尿の出現には, 糖尿病性腎症による変化に加え, 加齢や高血圧の影響が考えられた. 老年者糖尿病患者における微量アルブミン尿, 大血管障害, 高血圧は, 糖尿病および加齢に伴う血管壁の代謝異常という共通の基盤を有し, 互いに緊密な関係をもって進展していることが示唆された.
  • 神奈川県在住のA自動車製造会社定年退職者における車の運転をやめる理由とその影響
    吉本 照子
    1994 年 31 巻 8 号 p. 621-632
    発行日: 1994/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高齢者の交通手段の改善および交通安全の観点から効率的な対策を見いだすために, 企業退職者 (神奈川県在住, 60歳以上の男性) 500名を対象に郵送調査を行い, 高齢者が車の運転をやめる理由とその後の生活におよぼす影響を分析した. 回答者298名 (回収率: 59.6%) のうち, 運転免許所有者は196名, そのうち現在運転している者 (継続者) は149名, 近く運転をやめようと考えている者 (断念考慮者) は9名, 運転をやめた者 (断念者) は38名であった. 断念者38名のうち, 54歳以前に断念した者7名は加齢が影響する断念とは異質とみなして対象から除外し, 今回は55歳以降の断念者31名および断念考慮者9名の計40名と継続者149名の計189名を対象として分析した結果, I) 断念者の過半数が65歳までに運転をやめている. II) 断念者・断念考慮者と継続者の違いを年齢層別に比較すると, 60~64歳の層で断念者・断念考慮者は継続者に比べて, 主観的な健康状態が良好な者が少なく有職率が低い, 運転を趣味とする者が少なくグループで行う趣味等の活動を行っている者が少ない, III) 運転をやめる2大理由は, a) 運転機能低下に対する不安 (狭い道での運転しにくさ等と関連がある) および健康増進のために歩く必要を感じたこと, b) 電車・バス・自転車等, 他の交通手段を用いるため不要, と考えられる, IV) 運転をやめた個々の理由は運転をやめたことによる特定の主観的影響と関連している場合が多く, 狭い道での運転しにくさという理由と駅や歩道橋の階段の上り下りがつらいという影響, 他の交通手段を用いるため不要という理由と趣味やクラブ活動のための外出の減少という影響等に関連がみられる.
    高齢者が車の運転をやめることは, 断念理由と対応して社会的活動に影響を及ぼすと推測できる. 生活手段, 交通安全の効率的な対策のためには, 車や道路の改善とともに, 客観的な運転機能検査や運転断念の生活への影響に関する情報提供を行い, 高齢者が適確な結果予測のもとに運転の断念・継続を判断することが必要と考えられる.
  • 橋本 肇, 山城 守也
    1994 年 31 巻 8 号 p. 633-638
    発行日: 1994/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    目的: 老年者の手術では術後に発生するせん妄が術後管理の面で大きな問題となっている. 今回身体状況, 日常生活状態, 視覚, 聴覚, 痴呆程度, 精神状態 (うつ), 社会活動, 家庭生活などの術前状態と術後のせん妄など異常行動との関係について検討した.
    方法: 身体状況は疾患, 併存疾患, 視力, 聴力を4段階に評価した. 日常生活 (ADL) は食事, 用便,衣服の着脱, 洗面, 入浴, 起座, 歩行を総合し評価した. 痴呆は Clinical Dementia Rating (CDR), 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R) で評価した. うつは Geriatric Depression Scale (GDS) で評価した. 社会活動, 家庭生活は4段階評価した. 可能なものは自己評価とした. 術後せん妄は術後に異常な行動, 幻覚, 興奮, 失見当識, 不眠などを示し, 治療を必要としたものとした. 痴呆患者では術後の異常行為がせん妄によるか判定困難な症例もあったので「せん妄など異常行動」とし一括した.
    症例: 1992~1993年に中等度以上の手術をし, 術後ICUに入室した. 160人 (男70人, 女90人, 平均年齢76.3±7.5歳) を対象とした.
    結果: 術後せん妄など異常行動は52人 (32.5%) に見られた.
    身体状況とせん妄など異常行動の頻度との関係では疾患の重症度, 視力との関係は見られず, ADLの低下, 聴力障害で有意な増加が見られた. 痴呆との関係ではその頻度はHDSRスコアと逆相関し, CDRの程度と相関していた. うつではGDSでうつ傾向のあるものでせん妄など異常行動が多く見られたが有意差ではなかった. 社会活動をするものでせん妄など異常行動は少ないが有意差ではなく, 家庭生活とは関係が見られなかった.
    結論: 老年者ではADL, 知能, 聴力に障害ある患者で術後せん妄など異常行動が高頻度で見られた.
  • 1994 年 31 巻 8 号 p. 639-668
    発行日: 1994/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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