日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高拍出性心不全と狭心症を合併した85歳初発バセドウ病の1例
荒木 勉東福 要平
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1996 年 33 巻 3 号 p. 191-195

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抄録

症例は85歳女性で, 動悸, 手指振戦, 発汗過多, 体重減少を主訴に入院した. 動悸に一致した発作性心房細動, 軽度のびまん性甲状腺腫を認め, 血中甲状腺ホルモン (free T3 19.4pg/ml, free T4>8.0ng/dl, TSH<0.1μU/ml)・TSHレセプター抗体・123I摂取率の高値より, 85歳初発のバセドウ病と診断し, メチマゾールの投与を開始した. 2週間後 free T3 5.9pg/ml, free T4 2.6ng/dlに減少した頃より歩行時に胸部圧迫感と呼吸困難が出現するようになり, 陰性T波, 心拡大, 肺うっ血の出現を認めた. 心臓カテーテル検査の結果, 肺毛細管楔入圧 (PCW) 26mmHg, 肺動脈圧 (PA) 57/26mmHg, 右房圧 (RA) 15mmHg, 心係数 (CI) 5.0l/min/m2と高拍出状態を示し, また左前下行枝(9)番に有意狭窄を認めたことより, バセドウ病に伴う高拍出性心不全と狭心症と診断した. 治療により心不全, 狭心症は約2週間で軽快したが (CI 6.0l/min/m2), メチマゾールの内服を患者が自己判断で中止していたことが判明し, free T3 19.4pg/ml, free T4 7.6ng/dlと再上昇した. メチマゾールの投与を再開した頃より再び同様の胸部症状が出現するようになり, 陰性T波, 心拡大, 肺うっ血の増悪を認めた. 右心カテーテル検査の結果, PCW 23mmHg, PA 58/23mmHg, RA 14mmHg, CI 3.5l/min/m2と血行動態の悪化を認めたが, 治療により約1週間で軽快した (CI 6.4l/min/m2). 以後はメチマゾールの継続により free T3 3.1pg/ml, free T4 1.4ng/dlと正常化するとともに, PCW 11mmHg, PA 37/14mmHg, RA 5mmHg, CI 4.2l/min/m2と高拍出状態も改善し, 症状なく退院した. 高齢者のバセドウ病が決して稀でないことは以前より報告されているが, 本症例のように85歳での初発例は高齢者の中でも比較的稀と考えられ, 今後高齢化社会が進むにつれてさらに増えることが予想されるため, 見逃さないよう注意を要する疾患である.

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