日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
胸水中に異型形質細胞とM蛋白を認めた多発性骨髄腫の1例
荒木 勉東福 要平
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キーワード: 多発性骨髄腫, 胸水
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1996 年 33 巻 3 号 p. 196-199

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抄録

症例は高血圧症にて加療中の77歳女性で, 労作時呼吸困難と顔面・四肢の浮腫を主訴に入院した. 胸部X線写真では心拡大, 肺うっ血, 右胸水を認め, Swan-Ganz カテーテル検査では肺毛細管楔入圧 (PCW) 23mmHg, 肺動脈圧 (PA) 43/25mmHg, 右房圧 (RA) 16mmHg, 心係数 (CI) 4.2l/min/m2であった. 高血圧性心不全と診断し加療したところ, 約2週間で軽快し (PCW 17, PA 34/16, RA 6, CI 2.9), 右胸水も消失した. 心不全経過後も正球性正色素性貧血, 血沈の著しい亢進, 血清α2-およびγ-グロブリン分画の増加, 血清膠質反応の亢進, IgGの高値 (2,570mg/dl), IgA・IgMの低値を認めた. 骨髄穿刺と血清免疫電気泳動を施行した結果, 異型形質細胞の増加 (38.4%) とIgG-λ型のM蛋白血症が認められ, 多発性骨髄腫と診断した. 骨X線写真や骨シンチグラフィーでは明らかな骨病変は認められなかった. 多発性骨髄腫に対してメルファラン+プレドニゾロンを投与したが, 治療後も異型形質細胞が43.2%に認められ, IgGの高値 (2,573mg/dl) も持続した. この治療中に右胸水が再び増加し, 当初は心不全の再燃を疑い, Swan-Ganz カテーテル検査を再検したが, PCW 16, PA 30/15, RA 10, CI 3.1と著変なく, 心不全による胸水の可能性は否定的となった. 続いて右胸水穿刺を施行したところ, 血性胸水中に多数の異型形質細胞が認められ, 免疫電気泳動では血清と同じIgG-λ型のM蛋白 (IgG 912mg/dl) を認めた. 胸膜生検では形質細胞浸潤は認められなかった. その後右胸水はいわゆる悪性胸水となり, 腎機能の悪化とともに心不全が再燃し, 胸水出現後約2カ月で死亡した.
多発性骨髄腫で胸水を認めた場合には, その機序の解明 (特に心不全との鑑別) のために積極的に胸水細胞診と免疫電気泳動を施行する必要があると思われた.

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