日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
パーキンソン病の治療中に, 糖尿病性昏睡を契機にDIC, 高アミラーゼ血症を伴った悪性症候群を発症した高齢者の1例
佐伯 秀幸棟田 慎二郎小林 卓正
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1998 年 35 巻 2 号 p. 139-144

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抄録

症例は66歳, 女性. 59歳より近医にてレボドパと塩酸トリヘキシフェニジルによりパーキンソン病の治療を受けていた. 1996年6月17日より高熱が出現し, 翌朝には意識障害が認められたため当科へ入院した. 抗パーキンソン病薬は入院前日まで内服していた. 入院時, 昏睡状態で, 40℃台の高熱, 低血圧, 頻脈, 頻呼吸および尿閉を認めた. 一般臨床検査では白血球増多, 血小板減少, 高CK血症, 著明な高血糖, 脱水を認めた. 高浸透圧性非ケトン性糖尿病性昏睡, DICおよび尿路感染症と診断し, インスリン, 抗生物質, メシル酸ナファモスタットおよびウリナスタチンの投与を開始した. その後, 意識レベル, 高血糖, DICは改善したが, CK, ミオグロビン, アミラーゼは上昇し続け, 意識障害, 筋硬直, 手指振戦, 発汗などの症状も出現してきた. 血清CK値と血清ミオグロビン値の最高値はそれぞれ11,095U/l, 12,520ng/mlであった. これらの所見から悪性症候群と診断し, 6月26日からレボドパ/カルビドパとダントロレンの経口投与を開始したところ, 上記所見はすみやかに改善し, 全身状態も良好となった.
今回, 私達はパーキンソン病の治療中に, 糖尿病性昏睡を契機に悪性症候群を発症し, 抗パーキンソン病薬の中断により増悪した高齢者の1例を経験した. 本症例では悪性症候群の発症早期からDIC, 高アミラーゼ血症を合併していた. 高齢者は自他覚症状に乏しいため低栄養, 脱水に陥りやすく, 悪性症候群を発症しやすい状態にある. パーキンソン病を治療中の高齢者では常に本症候群の発症の可能性を念頭に置いて早期発見に努めるとともに, DICや多臓器不全に対する検査・治療を発症時から行うことが重要と思われた.

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