日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
アルツハイマー病におけるアミロイドβ蛋白 (Aβ) 分子種の意義
ELISAによる血漿, 髄液, 脳のAβ分子種の解析
玉岡 晃
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1998 年 35 巻 4 号 p. 273-277

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抄録

アルツハイマー病 (Alzheimer's disease; AD) 脳に沈着するアミロイドβ蛋白 (Amyloid β protein; Aβ) にはC末端の異なる2種類の主な分子種 (Aβ40とAβ42 (43)) が知られている. また, Aβ42 (43)はAβ40より重合しやすく, 重合したAβ42 (43) が核となってAβ42 (43) のみならずAβ40も凝集し, アミロイド線維として増生していくことが in vitro で確認されており, Aβ42 (43) の重要性が注目されている. 本研究ではAβのAD脳内沈着機序を解析するために, ELISAを用いて血漿, 髄液, 脳のAβ分子種を分別定量した. 血漿Aβ1-40, Aβ1-42 (43) はともに孤発性AD群, 疾患対照 (DC) 群, 正常対照 (NC) 群の間で有意差はみられなかったが, ADの約10%に著明な高値が認められた. 従って, 血漿Aβ分子種の分別定量は孤発性ADの診断には有用でないと考えられたものの, 一部の孤発性AD例においては, 血漿Aβの増加が脳内Aβの沈着と相関している可能性が示唆された. また, ダウン症候群 (DS) では, 血漿Aβ1-40, Aβ1-42 (43) ともにDS群において対照より有意の増加が見られた. DSにおける血漿Aβの増加は21トリソミーの影響の一つであると考えられたが, 痴呆の有無による差はなく, DSのAD発症に直接関与していることを積極的に支持する結果は得られなかった. 一方, 髄液Aβ40はAD, DC間で有意差がみられなかったが, 髄液Aβ42 (43) はADにおいてDCに比べ有意の減少とN末端の修飾の増加が認められ, AD脳におけるAβ42 (43) の動態を反映している可能性が示唆された. 脳のAβ分子種の定量では, プレセニリン-1 (presenilin-1; PS-1) 変異やAβ前駆体 (APP) 717変異, DSにてAβ42 (43) の増加が認められ, これらの遺伝的背景が脳のAβ代謝に影響し, Aβ42 (43) を増加することによってADを早期に発症するものと考えられた.

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