日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
動脈硬化巣におけるマクロファージの血管内皮細胞増殖因子発現の制御に関する研究
葛谷 雅文
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1998 年 35 巻 4 号 p. 268-272

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抄録

Vascular endothelial growth factor (以下VEGFと略す) は血管内皮細胞に対する特異的増殖因子として同定され, 胎生期の血管形成, ならびに種々の病態に伴う血管新生に関与していることが明らかにされつつある. 我々は以前血管平滑筋細胞の培養上清に血管新生誘導物質が存在し, それがVEGFであることを報告した. さらに人動脈硬化巣, 特に atheromatous plaque において, 平滑筋細胞層のみならず, lipid core 近傍のマクロファージ由来泡沫細胞周辺にVEGFの存在を認めた. 以上の結果よりVEGFは動脈硬化巣に存在し, 動脈硬化形成になんらかの役割を果たしていると思われる. しかしながらVEGFの発現が動脈硬化巣でどのように制御されているか依然として不明である. 今回我々はマクロフアージのVEGF発現にターゲットをしぼり, 炎症性サイトカインと, 動脈硬化の発症進展に重要な役割をはたしていると思われる酸化的変性低比重リポ蛋白 (OX-LDL) の影響につき検討した. マクロファージ cell line であるRAW264細胞に interleukin 1β, tumor necrosis factor αを暴露すると, RAW 264細胞にVEGF mRNA の発現が誘導された. さらに, OX-LDLの暴露によっても濃度 (5~100μg/ml), 時間 (3h~24h) 依存性にVEGF mRNA発現の増強を認めた. それに伴い細胞上清中のVEGF蛋白量も増加した. 以上より, 既に動脈硬化巣に存在が確認され, 病変の進展に関与していると思われる炎症性サイトカインや, OX-LDLによりマクロファージのVEGF mRNA 発現が誘導されることが明らかとなった. VEGFは動脈硬化巣に存在する微小血管形成や, 血管透過性の亢進, さらには単球・マクロファージの病変部への集積等に関与している可能性があると思われた.

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