日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
腸管出血性大腸菌O157感染から溶血性尿毒症症候群にいたり経過中に慢性胆嚢炎の急性増悪を繰り返した高齢者の1例
和泉 唯信阪口 勝彦良河 光一三木 基子伏見 尚子亀山 正邦
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1998 年 35 巻 7 号 p. 559-565

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抄録

症例は79歳, 女性. 既往歴に高血圧, 無症候性の胆石症および便秘症がある. 嘔気, 腹痛, 血便のため平成8年7月19日近医に入院した. 便培養にて腸管出血性大腸菌 enterohemorrhagic Escherichia coli O157: H7が検出された. 抗生物質投与後血便は改善したが, 腹部膨満感が出現した. また, 末梢血でヘモグロビンが10.6g/dl, 血小板が2.8万/μlと低下してきたため溶血性尿毒症症候群 (HUS: hemolytic uremic syndrome) が疑われ, 7月23日当院に転院した. 治療は, 血漿交換療法, 抗生物質, γ-グロブリン大量療法, ハプトグロビン補充, 抗凝固療法を中心に行った. 血漿交換は合計6回施行した. 貧血および血小板減少は徐々に改善しはじめ, 約2週間後には, ヘモグロビン値, 血小板数, 血清LDHは正常化しHUSは離脱した. 血清クレアチニンは全経過を通じて異常を示さなかった. 腸管運動の低下は長期間遷延した. 8月23日に急性胆嚢炎を認めたため, 経皮経肝胆嚢ドレナージ (PTGBD: percutaneous transhepatic gall bladder drainage) を施行した. 10月13日にも再増悪を認めたため, 抗生物質点滴により状態の改善を待ち11月12日に全身麻酔下で開腹胆嚢摘出術を施行した. 手術所見では, 胆嚢壁の肥厚があり粘膜に多数のリンパ球をびまん性に認め, 慢性胆嚢炎を示唆した. 術後の経過は順調で12月15日に退院した. O157感染および続発したHUSにより腸管運動が著明に低下したことが, 胆汁排泄低下を惹起し急性胆嚢炎を起こした可能性がある. 消化器系に既往症の多い老年者では, O157感染およびそれに続発するHUSとともにその既往症の管理に注意が必要である.

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