日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
生体ゆらぎと神経系のダイナミクス
日高 一郎山本 義春
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1999 年 36 巻 1 号 p. 8-15

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抄録

「確率共振 (Stochastic Resonance; SR) とは, 非線形なシステムに, あるレベルのノイズを加えたとき, 微少な入力信号に対する応答が最適化されるという現象であり, 近年, 物理学, 工学, 生理学等の広範な自然科学の分野で非常に注目されている. とりわけ神経系におけるSRは, 閾値以下の信号を検出可能にするという点で極めて画期的であり, 1個のニューロンやニューラル・ネットワークの数理モデルにSRを見いだす理論研究, あるいは, 実験動物の神経素子に実際にノイズを加えたり, ヒトの視覚-認知系, 皮膚感覚-認知系におけるSRを調べる実証的研究が行われてきた. また, 生体には1/fβ型 (特にβ=1) のスペクトル構造を持つ信号が遍在していることが知られているが, SRのノイズ項にさまざまなβをもつノイズを適用してシミュレートしたところ, 実際の生体信号と同様の有色雑音 (β=1) を負荷した方が, スペクトルが一様で時間相関のない白色雑音 (β=0) を用いるよりも低いノイズ強度で至適応答に達したという研究結果が報告されており, このことは生体1/fゆらぎの機能的意義をSRによって説明できる可能性を示唆するものである. SRにおいては, ノイズは信号を攪乱するものではなく, 逆に信号の検出力を高める媒体であるとみなせることから, 適切なノイズを外部から人工的に負荷することによって, 加齢や疾病によって低下した感覚機能を回復/向上できるかもしれない.

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