日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
血管新生研究の新しい展開
佐藤 靖史
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1999 年 36 巻 5 号 p. 308-316

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抄録

血管新生とは既存の血管から新しい血管ネットワークが形成される現象であり, 成熟個体においては, 通常, 子宮内膜, 卵胞, 創傷治癒など限られた時期・部位でしか観察されない. ところが, 固型腫瘍の発育と遠隔転移, 糖尿病性網膜症をはじめとする眼科疾患, 関節リウマチをはじめとする炎症性疾患, 粥状動脈硬化, 尋常性乾癬などにおいて血管新生が惹起され, それぞれの病態の進展と密接に関連する. 他方, 血管新生は, 閉塞性動脈硬化症や狭心症・心筋梗塞などにおいて, 虚血を解除するために重要である.
血管新生の発生する細小血管は, 血管内皮細胞とその周囲を取り囲むペリサイトの2種類の細胞によって構築されており, ペリサイトが取り囲むことによって血管は安定化している. 血管新生は, まずペリサイトが内皮細胞から離解することで開始する. 次ぎに内皮細胞は種々のプロテアーゼを産生して血管基底膜やその周囲の細胞外マトリックスを消化し, 刺激の方向へと遊走・増殖管腔構造物を形成する. 最後に, いったん離解したペリサイトも内皮細胞に続いて遊走・増殖し, 内皮細胞からなる管腔構造物の周囲を取り囲んで成熟した血管が構築される.
血管新生は抑制因子と促進因子のバランスによって制御されており, 促進因子の作用が抑制因子を凌駕したときにはじめて開始する. また, 促進因子といっても単一ではなく, 作用の異なる複数の因子が共同的に作用するものと考えられている. 最近の研究から, 血管内皮細胞に特異的に作用するVEGFファミリーおよびアンジオポイエチンファミリーの重要性が指摘されている.

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