抄録
暑熱による脱水症が誘因と考えられた高齢者脳梗塞例を通して暑熱, 脱水症と脳梗塞との関係を検討した. 対象は最高気温が連日概ね30度を越えていた2週間に当病院を受診した65歳以上の急性期脳卒中 (高齢猛暑群n=5) である. 対照にはその前後4週間に脳卒中で受診した高齢者の前群 (n=5), 後群 (n=3) を, また65歳未満の若年猛暑群 (n=1), 若年前群 (n=5), 若年後群 (n=2) を各々高齢対照群, 若年群として用い, 臨床所見, 画像所見を後方視的に検討した. 高齢猛暑群は全て脳梗塞で, その頻度は高く, いずれも活動した日の正午までに発症したのが特徴的であった. 1例 (78歳) は橋梗塞例で, 既往に多発性ラクナ梗塞があり, 嚥下障害がみられていた. 2例 (73,89歳) はラクナ梗塞例で, このうち1例は前立腺肥大症による頻尿を恐れて飲水制限をしていた. 他の2例 (76,83歳) は心原塞栓性梗塞例 (1例は再発例) であった. 高齢猛暑群では皮膚緊張度の低下, 舌の乾燥が全例に, BUN/Cr比≧25も透析患者を除く4例中3例に, フィブリノゲン上昇も3例中2例にみられ, 特にBUN/Cr比は若年群より有意に高かった. ヘマトクリット値の上昇はなかったが, 発症時の状況や臨床所見から脱水症が疑われ, 補液したところ, 皮膚緊張度は改善し, 3例の非塞栓性脳梗塞には抗血栓療法を施行して2例は軽快した. 以上より, 猛暑下での過剰発汗が高齢者の脱水症を助長し, 脳梗塞を惹起したものと考えられた. 高齢者は暑熱で脱水症をきたし易く, また脳梗塞が午前中に多かったことから, その予防には起床時の十分な飲水が重要であることが示唆された.