我々は, H
2受容体拮抗薬投与によって薬剤性の顆粒球減少症を生じたと考えられた症例に granulocyte-colony stimulating factor (G-CSF) 投与後, 両膝に仮性痛風発作を生じたと考えられた症例を経験したので, 文献的考察を加えて報告した.
症例は, 82歳女性で基礎疾患として慢性腎不全, 腎腫瘍があり, 脱水, 腎機能の悪化で当科入院となった. 入院後, 脱水は改善したが, 次第に白血球数が減少し, 顆粒球数645 (/μ
l) になった. 薬剤性顆粒球減少症を疑い, 考えられる薬剤を中止し, 感染症を予防する目的でG-CSF 75gの皮下投与を開始した. 5日間連続投与し, 顆粒球数が2,000 (/μ
l) になったことを確認し投与を中止した. その4日後突然, 左膝関節腫脹と痛みがみられ, 寝返りもできない状況となり, 翌日右膝関節も腫脹と痛みを生じた. 左膝関節のX線写真では, 骨軟骨の石灰化像を認め, 関節液よりピロリン酸カルシウムを同定したため, 膝関節痛発作は仮性痛風と診断した. 関節液中には, 多数の好中球が認められ (10,400/mm
3), G-CSF値も末梢血に比べ上昇していた (関節液700ng/m
l, 末梢血62ng/m
l). さらに炎症性サイトカインのうち, interleukin-6, interleukin-8の著明な増加がみられた. したがって, 顆粒球減少に対する, G-CSFの投与が好中球機能を活性化し, 膝関節への好中球集積と炎症を惹起した可能性が考えられた. 老年者では, 仮性痛風が比較的多いことから, G-CSF投与にあたっては稀ながら関節痛の発症や増悪の可能性も念頭に置くべきと考えられた.
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