日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
36 巻, 8 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 稲松 孝思
    1999 年 36 巻 8 号 p. 523-529
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    新興・再興感染症の出現は, ヒト集団の存在様式 (生活様式, 環境, 医療内容など) の変化の中で, ヒトと微生物の共進化の結果として生ずる生態学的現象と言える. 高齢者集団の増加と, 医療的対応の変貌は, 新興・再興感染症出現の母地となっており, 新興感染症と捉えて新たな課題に対する監視体制と, 研究の継続が求められる. 高齢者に対する従来の侵襲的治療と抗菌薬の多用は, 一定の成果を上げてきたが, 一方でMRSAなどの耐性菌蔓延の温床となってきた. 高齢者集団の急増や, 定額医療や在宅医療推進などの高齢者医療の変革は, 在宅医療などにおける高齢者感染症対策の新たな課題を提供している. 感染症発症予防と早期診断早期治療の推進による高齢者のQOL維持に重点を置いた効率的な感染症対策を構築していく必要がある. 具体的には, インフルエンザワクチンの普及, 介護者に対する誤嚥性肺炎や褥瘡, 尿路感染などの予防処置の教育が求められる. また, 定額医療の中で, 早期診断に基づく抗菌薬の適正な選択と用量設定が求められる一方, 回復の見通しのない終末期感染に対しては, QOLを配慮した抗菌薬制限も考慮すべきであろう.
  • 近藤 宇史, 趙 成三, 井原 義人
    1999 年 36 巻 8 号 p. 530-534
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
  • 血管合併症, 予後の検討
    岩本 俊彦, 小泉 純子, 杉山 壮, 阿美 宗伯, 清水 武志, 田中 由利子, 高崎 優
    1999 年 36 巻 8 号 p. 535-541
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者における血中リポ蛋白 (a) [Lp(a)] 濃度の意義を明らかにする目的で, 老年受診者をLp (a) 濃度によって35mg/dl以上の高値群と20mg/dl未満の低値群に分類し (各々48例, 97例), その臨床所見, 予後を比較検討した. 臨床所見は既往歴, 血管性危険因子 (高血圧, 糖尿病, 高脂血症, 喫煙) および血管合併症 [頭部CT検査, 頸動脈超音波断層検査 (US), 心電図検査, ankle pressure index (API) で評価] の有無を検索し, 予後は5年間追跡期間中の生存分析, 死因および血管性事故 (脳卒中や心筋梗塞の発症, ASOの病期進行, 大動脈瘤の発現) の有無を検討した. 両群の背景因子で年齢, 性別に差はみられず, 高値群で脳卒中の既往が多い傾向を示した. また, 高値群 (vs. 低値群) ではCT異常, US異常が各々73% (vs. 54%), 83% (vs. 51%) と有意に多く, API低値が多い傾向を示していた. 死亡例は高値群で18例 (vs. 21例) あり, 年間死亡率は9.4% (vs. 4.8%), log-rank 検定 (統計量4.70, p=0.0301) で低値群との間に有意差を認めた. 生命予後に対する Cox ハザード比では年齢(2.70), CT異常 (2.62), Lp (a) 高値 (2.69) が有意に高かった. 死因の61%は肺炎で, このうち脳卒中によると思われる嚥下性肺炎は64%にみられた. 血管合併症も5年間で10例 (vs. 8例) みられ, 年間発症率は5.5% (vs. 1.8%) と高く, このうち7例が脳梗塞であった. 以上より, Lp (a) 濃度が遺伝的に規定されていることから, Lp (a) に対する暴露時間は年齢に比例し, 老年者ではLp (a) 高値によって血管病変が進展した結果, 循環障害が顕性化するものと考えられた. したがって, Lp (a) 高値は老年者において予後不良な因子であることが示された.
  • 宮内 英二, 松本 正幸, 木村 康宏, 宗平 純一, 高崎 幹裕, 槻尾 義昭, 土屋 博, 河西 研一, 山田 和彦, 星野 智子, 服 ...
    1999 年 36 巻 8 号 p. 542-546
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    日本国内で最初に開発されたβ優位なαβブロッカーである塩酸アロチノロールを用い, 老年者本態性高血圧患者の臨床効果および腎機能に及ぼす影響を検討した. 対象は外来に通院する70歳以上の安静時収縮期血圧が160mmHg以上または拡張期血圧が96mmHg以上の高血圧患者で, 男性10例と女性32例の合計42例であった. 4週間の観察期間ののち初回投与量として塩酸アロチノロール (アルマール) 10mg/日を分2で朝, 夕食後に投与し4週間後効果判定した. 効果不十分な場合は30mgに増量し, 効果十分な場合は継続投与し, 全治療期間を24週間として検討した. この期間中4週毎に血圧, 脈拍を測定し自覚症状の推移を判定した. また, 観察期, 12週後, 24週後に腎機能を評価した.
    収縮期血圧, 拡張期血圧ともに4週後より有意な降下を示し, 以後降圧効果は持続した. 心拍数においても4週後より有意な低下を示した. 血清クレアチニン値, BUN値, アルブミン値ではいずれにも有意な変化はなかった. 尿中β2マイクログロブリン値は観察期228.93±187.2μg/day, 12週後190.02±263.21μg/day, 24週後203.05±180.51μg/dayで有意な変化はなかった. 尿中NAG値は観察期4.13±2.68U/day, 12週後3.94±2.41U/day, 24週後4.40±2.96U/dayで有意な変化はなかった. 同様にクレアチニンクリアランス (以後Ccrと略す) においても観察期72.90±50.00ml/min/1.48m2, 12週後61.48±30.51ml/min/1.48m2, 24週後76.48±56.09ml/min/1.48m2と有意な変化は認められなかった. 以上の事より老年者の本態性高血圧患者に対して塩酸アロチノロール (アルマール) は腎機能に悪影響を与えずに有意な降圧効果を示す薬剤と考えられた.
  • 勝谷 友宏, 檜垣 實男, 石川 一彦, 佐藤 憲幸, 荻原 俊男
    1999 年 36 巻 8 号 p. 547-552
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高血圧は多因子疾患であり, その発症, 進展には複数の環境因子, 遺伝因子が関与している. これまでの高血圧の疾患感受性遺伝子に関する報告は, 大部分が若年発症の高血圧患者を用いて成されたものであり, 老年者高血圧における遺伝子多型の意義は殆ど検討されていない. 本研究では, 高血圧の候補遺伝子の7つの多型の頻度を若年者・老年者群で比較検討することにより, 老年者高血圧における遺伝子多型解析の意義を検討した. 高血圧との有意な相関は, 若年者におけるアンジオテンシノーゲン遺伝子のT235アリル, 及び若年男性におけるアンジオテンシンII-2型受容体遺伝子のA3123アリルのみで認められた. アポリポ蛋白Eのプロモーター領域のT-491A多型やαアデュシン遺伝子多型でも同様の傾向が認められたが, アンジオテンシン変換酵素の挿入・欠失多型, MTHFR (methylenetetrahydrofolate reductase) の Gly460Trp多型, アンジオテンシンII-1型受容体遺伝子のA1166C多型, アポリポ蛋白Eのε2,3,4多型では, 高血圧に対するオッズ比に若年者・老年者間で違いが認められず, 加齢による疾患感受性の変化は遺伝子多型により異なることが示唆された. 今後の疾患感受性遺伝子解析では, より大規模な一般集団を用いて, 遺伝子多型が実際の疾患の発症や合併症の頻度, 致死率に及ぼす影響を経時的に観察していくことが重要であると考えられる.
  • 今中 俊爾, 吉原 幸治郎, 江村 正, 小泉 俊三, 檜垣 實男, 荻原 俊男, 三木 哲郎
    1999 年 36 巻 8 号 p. 553-560
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老人医療は老人を対象とした総合診療であるともいえる. その視点から「総合診療部 (科) の立場からの老年医学 (教育) への取り組みについて」と題するアンケート調査を大学病院勤務の総合診療研究会会員に対して行った. 医師の経歴, 所属科の老年医学に関する研究テーマ, 老年医学 (教育) に対する興味や老年医学についてのイメージ, 卒前・卒後の老年医学 (教育) のあり方, また総合診療の立場からする老年医学 (教育) についての考えなど6項目について回答を求めた. アンケートを郵送し, 181名中96名 (53.0%) から回答を得た. 回答者の現在の担当科は総合診療部門が51名 (53.1%), 教育上の立場は指導者が57名 (60.0%) を占めた. 往診を含む老人在宅医療に携わった者は46名 (48.4%), 日本老年医学会には17名 (18.1%) が所属していた. 老年医学 (教育) に対し興味があると答えた者は76名 (85.4%) であった.
    老年医学のイメージとしては“老人を対象とした総合診療そのものである”とする者や老年医学 (教育) の重要性・必要性・特殊性を強調する意見のほか,“老年医学で得られた知識や成果が診療や教育に反映されていない”, また“老年医学 (教育) はなされていない”とする意見がみられた. 96.8%の回答者が老年医学に関する卒前・卒後教育の必要性を認めた. 卒前教育については, 老年医学教育を基礎, 臨床, 社会, その他の4つの部門に分け, 担当すべき科を質問した. 基礎, 社会部門はほとんどが空欄で回答しがたい状況が推測され, このことが現在の老年医学教育の困難さを示していると思われた. また, 講義と実習の重要性に関する質問では実習, とりわけ病院・施設の見学を必要とする意見が多かった. 卒後教育については, 臨床・社会医学に関する9項目および実際の研修上必要とされる6項目をとり上げ, 重要と思われる項目を選択するよう依頼したが, 前者では「医療と福祉, 介護」,「生活機能障害の総合評価」,「薬物療法」, 後者では「一般的ケア」,「リハビリテーション的指導」,「心理的サポート」がそれぞれ上位3位を占めた. 一方, 研究面に関するアンケートでは老年医学に関係した研究をしていると回答した者は20名 (22.5%) であった. その内容は日常生活動作や Living will をテーマとしたものなどで老人の健康や生活に密着した研究が行われていた.
  • 山下 純世, 宮川 浩一, 稲垣 俊明, 土肥 靖明
    1999 年 36 巻 8 号 p. 561-564
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例は86歳, 男性. 高血圧症に対しカルシウム拮抗薬の内服治療中であったが徐脈の原因となる薬剤の服用歴はなかった. 平成10年1月, 初診時の12誘導心電図で洞性徐脈と完全右脚+左脚前枝ブロックを認め, 精査治療目的で入院となった. ホルター心電図検査では一日総心拍数の減少 (74,182/日) と2秒以上の心停止 (187/日) を認めた. 電気生理学的検査では修正洞結節機能回復時間の延長(5,820msec, 刺激頻度130/分) とHV時間の延長 (80msec) を認めた. 以上の検査所見より洞機能不全症候群 (Rubenstein II型) と診断した. 入院時の日常生活動作能力は Barthel インデックス30点であった. 徐脈による明らかな自他覚症状がなく, 人工ペースメーカ植え込みに対する患者の同意が得られなかったため保存的治療を選択した. まずβ刺激剤の硫酸オルシプレナリン (30mg/日) を経口投与したが心拍数の増加はなかった. そこでシロスタゾール100mg/日の経口投与を開始したところ, 2週間後には一日総心拍数の増加 (85,642/日) とともに日常生活動作能力の改善を認めた (Barthel インデックス55点).
    人工ペースメーカー植え込みの絶対適応でない高齢徐脈性不整脈患者に対しシロスタゾールは保存的治療法の第一選択薬として試みる価値があると思われた.
  • 岩本 俊彦, 赤沢 麻美, 阿美 宗伯, 清水 武志, 馬原 孝彦, 高崎 優
    1999 年 36 巻 8 号 p. 565-571
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    暑熱による脱水症が誘因と考えられた高齢者脳梗塞例を通して暑熱, 脱水症と脳梗塞との関係を検討した. 対象は最高気温が連日概ね30度を越えていた2週間に当病院を受診した65歳以上の急性期脳卒中 (高齢猛暑群n=5) である. 対照にはその前後4週間に脳卒中で受診した高齢者の前群 (n=5), 後群 (n=3) を, また65歳未満の若年猛暑群 (n=1), 若年前群 (n=5), 若年後群 (n=2) を各々高齢対照群, 若年群として用い, 臨床所見, 画像所見を後方視的に検討した. 高齢猛暑群は全て脳梗塞で, その頻度は高く, いずれも活動した日の正午までに発症したのが特徴的であった. 1例 (78歳) は橋梗塞例で, 既往に多発性ラクナ梗塞があり, 嚥下障害がみられていた. 2例 (73,89歳) はラクナ梗塞例で, このうち1例は前立腺肥大症による頻尿を恐れて飲水制限をしていた. 他の2例 (76,83歳) は心原塞栓性梗塞例 (1例は再発例) であった. 高齢猛暑群では皮膚緊張度の低下, 舌の乾燥が全例に, BUN/Cr比≧25も透析患者を除く4例中3例に, フィブリノゲン上昇も3例中2例にみられ, 特にBUN/Cr比は若年群より有意に高かった. ヘマトクリット値の上昇はなかったが, 発症時の状況や臨床所見から脱水症が疑われ, 補液したところ, 皮膚緊張度は改善し, 3例の非塞栓性脳梗塞には抗血栓療法を施行して2例は軽快した. 以上より, 猛暑下での過剰発汗が高齢者の脱水症を助長し, 脳梗塞を惹起したものと考えられた. 高齢者は暑熱で脱水症をきたし易く, また脳梗塞が午前中に多かったことから, その予防には起床時の十分な飲水が重要であることが示唆された.
  • 山本 寛, 寺本 信嗣, 松井 弘稔, 松瀬 健, 鳥羽 研二, 大内 尉義
    1999 年 36 巻 8 号 p. 572-575
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    我々は, H2受容体拮抗薬投与によって薬剤性の顆粒球減少症を生じたと考えられた症例に granulocyte-colony stimulating factor (G-CSF) 投与後, 両膝に仮性痛風発作を生じたと考えられた症例を経験したので, 文献的考察を加えて報告した.
    症例は, 82歳女性で基礎疾患として慢性腎不全, 腎腫瘍があり, 脱水, 腎機能の悪化で当科入院となった. 入院後, 脱水は改善したが, 次第に白血球数が減少し, 顆粒球数645 (/μl) になった. 薬剤性顆粒球減少症を疑い, 考えられる薬剤を中止し, 感染症を予防する目的でG-CSF 75gの皮下投与を開始した. 5日間連続投与し, 顆粒球数が2,000 (/μl) になったことを確認し投与を中止した. その4日後突然, 左膝関節腫脹と痛みがみられ, 寝返りもできない状況となり, 翌日右膝関節も腫脹と痛みを生じた. 左膝関節のX線写真では, 骨軟骨の石灰化像を認め, 関節液よりピロリン酸カルシウムを同定したため, 膝関節痛発作は仮性痛風と診断した. 関節液中には, 多数の好中球が認められ (10,400/mm3), G-CSF値も末梢血に比べ上昇していた (関節液700ng/ml, 末梢血62ng/ml). さらに炎症性サイトカインのうち, interleukin-6, interleukin-8の著明な増加がみられた. したがって, 顆粒球減少に対する, G-CSFの投与が好中球機能を活性化し, 膝関節への好中球集積と炎症を惹起した可能性が考えられた. 老年者では, 仮性痛風が比較的多いことから, G-CSF投与にあたっては稀ながら関節痛の発症や増悪の可能性も念頭に置くべきと考えられた.
  • 1999年改訂版
    日和田 邦男, 荻原 俊男, 松本 正幸, 松岡 博昭, 瀧下 修一, 島本 和明, 鳥羽 研二, 阿部 功, 小原 克彦, 森本 茂人, ...
    1999 年 36 巻 8 号 p. 576-603
    発行日: 1999/08/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
feedback
Top