日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
地域総合病院における90歳以上の腹部手術例の検討
市川 英幸林 四郎
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2002 年 39 巻 1 号 p. 51-56

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抄録

90歳以上の腹部手術13例を対象にして, この年齢層における手術の適応, 功罪などを検討した. 待期手術は7例で, 平均年齢92.0歳で, 男女比2:5であった. 胃癌3, 直腸癌1例, 直腸ポリープ1例で, 術前合併疾患は7例中6例で認められ, 循環器系の合併症が多かった. 手術は胃切除3例, 低位前方切除1例, 経肛門的ポリープ切除1例, 胆摘総胆管ドレナージ2例である. 術後合併症は7例中5例に認められたが一過性精神症状, 癒着性腸閉塞症など, 軽度なものであった. 96歳女性は術前からの寝たきり状態であったが, 胃癌の出血のため, 姑息的胃切除が行われた後も8カ月間入院治療を余儀なくされ, 死亡したが, 他の6名は平均23日で軽快退院した. 一方, 緊急手術6例は平均年齢92.7歳で男女比2:4であった. 腸閉塞3例, 胃潰瘍, 上行結腸癌, 腸閉塞症による穿孔で汎発性腹膜炎が各々1例であった. 術前合併症としては6例中4例に循環器系, 脳梗塞などの合併症が認められた. 発症より手術までの時間は5時間から6日で, 手術術式としては小腸切除, 右半結腸切除, 胃穿孔部の閉鎖術などが行われた. 6例中4例に術後合併症が発生したが, 創感染3例, 肺炎2例, 縫合不全, 創開, 腸閉塞など重篤な合併症が多かった. 上行結腸癌に盲腸穿孔, 腹膜炎を合併し, 右半結腸切除が行われた97歳女性は縫合不全を生じ, 多臓器不全で術後21日目に死亡した. 他の5例の術後入院日数は平均32日で軽快退院した.
ASA分類上, II, III度と判定される90歳台の高齢者でも待期手術, 緊急手術のいずも比較的安全に行われることが示された. 手術後の生存率は待期手術と緊急手術との間に差はなかったが, 良性疾患と悪性疾患との間では, 悪性疾患群では有意に低率であった. また, 退院できた11例中7例のPSは, 術後も術前と同程度の日常生活が可能であった. PSが悪化した4例も介助は必要であったが自分で身の回りの世話が出来たため, 患者も家族も手術に対して満足していた.

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