日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者の消化器疾患
外科の立場から
木村 理
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2002 年 39 巻 2 号 p. 127-140

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抄録

外科手術を対象にした患者層における高齢者の頻度は年々増えている. 外科おける高齢者の消化器疾患では悪性疾患が重要である. 胃癌では分化型の多いことが特徴である. 胃癌の手術の場合には根治性に対して少し引いた考え方をする. 早期胃癌に対しては内視鏡的粘膜切除術 (EMR) の適応を臨機応変に拡大して施行する. 大腸癌の発生頻度は加齢とともに増加する. 近位側結腸の癌および多発癌の頻度が増すことが特徴である. 大腸癌では根治性を落とした手術をする必要はない. 根治性を落とすべきなのは, 併存する合併症に対してである. 腹腔鏡補助下大腸切除術の術後の経過をみると, 排ガスまでの期間や経口摂取開始時期, 在院日数が短く, 高齢者における有用な大腸手術術式の一つである. 高齢者肝癌では, 女性の頻度が高いこと, HB坑原陽性率や肝硬変合併率が低いことが特徴である. 比較的肝機能の良いものが多く, 浸潤型が少なく門脈腫瘍塞栓の頻度が低率で, 組織学的に高分化のものが多い. 治癒切除により長期生存を期待できる症例が多く, 周術期管理を注意深く行えば, 安全な肝切除が可能である. 転移性肝腫瘍は肝腫瘍のなかでもっとも頻度が高い. 肝切除の適応は原発巣が根治的に切除されており, 肝以外に転移がないことである. 胆石症は高齢者に高頻度にみられる疾患である. 著者らの高齢者主体の剖検例の検索では, 4,482例中957例 (21.4%) に認められ, 男性では60歳から94歳までは加齢とともに増加した. 高齢者にみられる胆石症では, 無症状のものが大く, 生前に有症状で胆嚢摘出術受けていたのは16%程度であった. 治療としては, 腹腔鏡下胆嚢摘出術, 内視鏡的乳頭括約筋切開術や開腹胆管切開・切石, T-チューブドレナージなどがある. 胆嚢結石は胆嚢癌の危険因子, 関連因子と考えられ, 胆石保有者は非保有者より6倍の高率に胆嚢癌の発生がみられた. 胆嚢癌の外科的治療は進行度とくに深達度に応じて単純胆摘術, 拡大胆摘術, 肝右葉あるいは部分切除などに胆管切除術やリンパ節郭清を組み合わせて行う. 高齢者の急性膵炎には, 原発性急性化膿性膵炎と呼称されるべき特徴をもった一群が認められる. 通常型膵癌の治療成績は, 膵が後腹膜に存在し早期に広範な浸潤をすること, 大多数が進行癌であることなどから, 切除例の5年生存率が9%と不良である. 最近, 予後のいい粘液産生膵腫瘍が注目を浴びている. 高齢男性の膵頭部に好発する. 高齢であっても膵頭十二指腸切除術は安全に行えるようになってきた. 救急手術では高齢者ではとくに対応の遅れの影響が大きいため, 手術や観血的な緊急処置の適応をすばやく判断しなくてはならない. 高齢者では高血圧, 糖尿病, 動脈硬化など慢性疾患を高率に合併すること, および癌が関与する場合が多い. 全身状態の悪い患者に対しては縮小手術, 緊急避難的処置を十分に考慮する.

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