日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老化とビタミンE
高崎 優柳川 清尊篠崎 一志藤井 広子渋谷 健武田 弘志松宮 輝彦江頭 亨
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2002 年 39 巻 5 号 p. 494-500

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抄録

私共は, 脂溶性ラジカルスカベンジャーであるビタミンE (α-トコフェロール) の生体膜内での酸化-還元動態 (抗酸化能) と老化との関連, および各種病態におけるその動態変化の病態生理学的意義について検討を行った. ビタミンEは膜脂質への過酸化連鎖反応によって生じる過酸化脂質ラジカルを消去し, 自らはビタミンEラジカル, さらにはビタミンEの酸化型代謝物であるビタミンEキノン (α-トコフェロールキノン) となる. 従って, ビタミンEによる膜内での抗酸化能をより正確に把握するためには, ビタミンEとビタミンEキノンの同時測定法の確立が必要となる.
この目的のために, まず, ビタミンEとビタミンEキノンの高感度同時測定のためのHPLCシステムを開発した. 次いで, これを基礎および臨床研究に応用し, 加齢および各種病態 (糖尿病, 高脂血症) に伴う赤血球膜内ビタミンEの動態変化を観察し, 以下のような結果を得た.
1) HPLC-multiple coulometric ECDによるα-トコフェロールと, その酸化型代謝物のα-トコフェロールキノンの高感度同時測定システムを開発した. このシステムは, 生体膜におけるα-トコフェロールの酸化-還元動態を評価する上で有用である.
2) 加齢 (10~120週齢) に伴い, ラット赤血球膜内でのα-トコフェロール利用率が増加する. しかし, 血漿中から赤血球膜内へのα-トコフェロール移行率は低下する. さらに, 加齢により赤血球膜内の過酸化脂質量の増加と膜流動性の低下が生じる.
3) ヒト赤血球膜内でのα-トコフェロール利用率は加齢に伴い増加する. また, この利用率と健常者の年齢 (23~103歳) との間に有意な正の相関が認められた.
4) 健常高齢者 (平均71.8歳) に比較してインスリン非依存性糖尿病の高齢者 (平均68.1歳) では, 赤血球膜内へのα-トコフェロール移行率が低下する.
5) 高脂血症高齢者 (平均74.1歳) では, 健常高齢者 (平均71.2歳) と比較してα-トコフェロールの赤血球膜内での利用率および膜内への移行率が低下する.
以上の成績から, α-トコフェロールの生体膜内における酸化-還元動態を考究することは, フリーラジカルが関与する各種疾患の発症や進展, さらには合併症の発症解明の一助となると考えられる. また, この酸化-還元動態は, 加齢評価のための指標の一つになり得る可能性が示唆された.

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