日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
イギリスの医療改革と日本医療の現状と課題
近藤 克則
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2006 年 43 巻 1 号 p. 19-26

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抄録

世界ではじめて, 全国民に利用時原則無料で医療を保障する制度を作った国がイギリスである. しかし, そのイギリスでは, 長きにわたる医療費抑制政策の結果, 130万人を超える入院待機者に象徴される医療の荒廃を招いた. そこからの脱却を図ろうとブレア政権は, 医療費を5年間で実質1.5倍にし, 医師・看護師を大幅に増員する医療改革に取り組んでいる. 政府の発表によれば最近になりようやくその効果が見え始めている. その過程や改革の内容は, 公的医療費抑制に向けた論議がされている我が国の将来を考える上で, 多くの示唆を与えてくれる.
本論では, まず「第三世界並み」とまで表現されたイギリス医療の荒廃ぶりを, 待機者問題などを例に示す. 次に, それと比べる形で, 我が国にも医療費抑制政策の歪みが表れていることを述べる. 例えば, 病院勤務医が労働基準法を遵守すれば病院医療が成り立たない状況にあることを示す. この余裕のない状態から, さらに医療費が抑制されれば, もはや医療従事者の士気が保てず, 医療が荒廃するであろう.
後半では, ブレア政権が, どのようにして医療費拡大への国民の支持を得たのか, その医療改革の枠組みや保守党時代との違いを検討する. さらに, ここ数年の改革の軌跡と, それへの政府の立場と批判的な立場の両者の評価を紹介する.
これらを通じ, イギリスの医療改革の経験を踏まえ, 日本においても「医療費抑制の時代」を超えて「評価と説明責任の時代」へと向かうための3つの必要条件-(1)医療現場の荒廃ぶりと, その主因が医療費抑制政策にあることを国民に知ってもらうこと, (2)医療界が自己改革をして国民からの信頼を取り戻すこと, (3)「拡大する医療費が無駄なく効率的・効果的に使われる」と国民が信頼し納得できるシステムを構築すること-を述べる.

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