日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高令者脳血管障害の研究
第1報 高令者における両側性脳血管病巣の臨床病理学的研究
村松 睦岸本 篤郎蘇 進一平井 俊策森松 光紀奥平 雅彦
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1970 年 7 巻 5 号 p. 275-283

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抄録

老人脳においては, 小軟化巣を持たぬ脳はないとまでいわれており, また老年者の片麻痺例では, 対側にも神経学的に諸種の異常をみるものが多い. 今回, われわれは, 本院における最近四年間の老年者剖検例141例中肉眼的な脳血管障害巣を有した78例について, とくに両側性病巣を認めた66例 (84.6%) を中心として,脳内病巣と臨床症候とを対比検討した. 即ちこれら66例を運動障害とくに片麻痺の発生状況, および両側における運動障害を中心とした神経学的異常所見より評価して, 臨床的に両側麻痺が生前診断できたものを第I群とし, 生前には片麻痺のみしか診断できなかったものを第II群とし, 生前には脳内病変の存在が診断できなかったものを第III群 (Silent group) とした.
さらに, 第I群をその片麻痺の発生経過を中心に, A. 片麻痺交互発生型, B. 片麻痺+対側麻痺漸次発生型, C. 両側麻痺漸次発生型, D. 両側麻痺同時発生型の4型に分けた. この臨床型と脳内病巣との関連は, IA型では, その13例の病巣集積の示す部位は内包を含む基底核部に全例主病変があり, 25%の者は橋底部にも病巣を有していた. B型は基底核部の lacune が主で片麻痺の責任巣としては橋底部に軟化巣を大部分の例にみた. C型は不全麻痺が漸次両側にみられたものであるが, 病巣は基底核部の微小軟化巣であった. D型は全例脳内出血例であり, 大脳出血2, 橋出血1, クモ膜下出血3, 小脳出血1であった. II群の対側病巣の見落しは, 被殼部の lacunc が主であり, III群即ち Silent 群の脳内病変は, 同様の lacune と劣位半球における皮質巣が主であり, 病巣の部位や大きさの他に, 高令者の場合, 臨床経過時間や拘縮変形, 浮腫などの二次的病態も診断を困難にしている. IA型の中等大軟化巣には56%に褐色色素沈着があり, また50%にangionecrosis を認めた事より, これら軟化巣の一次的原因は脳血管破綻巣と考えられる.

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