遺伝学雑誌
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家蠶及其近縁絹絲蟲の細胞學的研究
II. 天蠶 (Antheraea yamamai Guérin) 及び柞蠶(Antheraea pernyi Guérin) 並に其雜種に於ける精蟲發達史
川口 榮作
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1934 年 10 巻 2 号 p. 135-151

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抄録

1) 天蠶は一化性で化蛾は初秋期に行はれ卵を以て越年するが, 柞蠶は二化性で二化期は蛹を以て越年する。天柞蠶の交雜F1は何れを雌とするも柞蠶と同樣に蛹を以て越年する。
然し生殖細胞成熟分裂の起る時期は反對に天蠶と似る, 即ち柞蠶は冬期の蛹中に起るに反して, 天蠶及F1雜種は秋期化蛹後直に起る。即ち蛹の越冬性は柞蠶に於て, 生殖細胞の成熟期は天蠶に於て優性である。
2) 天蠶の haploid 數は31で, 柞蠶では49を算ふ。後者は曾て門田氏(1921)の觀察したるものと一致する。
3) 雜種に於ける精母細胞染色體數は變異多く, 少きは60-63, 多きは兩親の半數染色體の和(49+31=80)を示すものあり, 平均68-69を算ふ。
4) 細胞體内物質は主に兩親について觀察した。精母細胞内の Mitochondrien は多數の球状又は楕圓體状の空胞で核の周圍に群在する。空胞は中心體に向つて或時は強く或時は弱く放射状の排列を示す。
5) Golgi 體は約20個の環状體として精母細胞内に見られる。その一個は後に精蟲の Acrosom として頭部に殘る。
6) 核仁は普通第一成熟分裂前に消失するが, 柞蠶を雌とする雜種F1のみは消失せず, 精蟲となりても永くその尾部に殘存する。
7) この事實から核仁は恐らく細胞質の物質代謝作用と關係あるもので, 核の變化とは無關係であることが想像され, Gatenby(1931)の實驗と共に核仁の生理的意義闡明に對する一の手掛りとなるものと考へらる。
8) 雜種の精母細胞及び精子細胞, 特に後者に於ては隣接の核間に核物質の融合起り其爲に精蟲頭部の大さは甚しく大小不同である。時に一核兩尾の精蟲も形成さる。是等の現象は異種染色體間の親和性の缺乏と共に本雜種の不受精性の原因となるものと想像される。

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