抄録
今染色體の或る區域にp1%, 他の區域にp2%の交叉が起つたと考へる。すると此等兩區域に同時に交叉が起る頻度は理論的にp1×p2で表はされる。此の理論比を以つて實驗比 (p0) を割つたもの, 即ちp0/p1×p2を一致率 (coincidence) と唱へ交叉に伴ふ干渉の強さを定める。一般に一致率は1を超過しないものであるが, V型染色體の中央部又は染色體異常の起つてゐる部分などでは屡ゝ1を越ゆることがある。其の理由は恐らく減數分裂の生長期に於て對をしない染色體が存在するためであるらしい。
然し一致率が1以上の値をとることは, 單に以上の場合だけでなく普通の棒状染色體でも二つの區域が非常に離れてゐる際にはよく見受けられる。此の場合今迄の研究者が1を越えないといつたのは間違つた計算法で一致率を求めてゐたからである。然し1を越ゆることに對する説明法は現在のところ明らかではない。筆者は唯理論と實驗との合致しないところに何か重要な意味があるのではないかと思つてゐる。