損害保険研究
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<論文>
逸失利益の算定方式
—その批判的検討—
二木 雄策
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2016 年 77 巻 4 号 p. 117-147

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抄録

 交通事故による損害賠償の一環である逸失利益は,通常,被害者の平均年収(=基礎収入)に5%のライプニッツ係数を乗じて求められている。このような算定方式は果たして公正な結果をもたらすものなのだろうか。

 第一に,この方式は計算を簡略にするための近似法によるものなので,得られた金額の多寡は必ずしも正確なものではない。そればかりか,この方式では逸失利益の男女間格差が実態以上に拡大されるなど,無視できない質的な誤差をも含んでいる。

 第二に,この方式では逸失利益が,金銭の貸借や手形割引などと同じように,将来の「カネ」と現在の「カネ」との関係として捉えられている。しかし逸失利益というのは被害者が生産できるはずだった将来の「モノ」を現在の「カネ」で評価した金額なのだから,それを算定するためには,利子率だけではなく,「モノ」の価格(=物価)の変化をも考慮しなければならない。まして両者の値は,過去の統計が示すように,密接な関係にある。それにも拘わらず現行の算定方式では利子率だけが採り上げられ生産物の価格変化という視点は抜け落ちていて,その結果,被害者は大きな不利益を蒙ることになっている。

 逸失利益は公正なものでなければならないのだから,現行の算定方式は,少なくともこれらの点については,修正されなければならない。

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