2016 年 77 巻 4 号 p. 171-201
純粋経済損失に対応する保険として専門業務賠償責任保険(PI保険)があるが,弁護士・税理士・医師・建築士等の国家資格に関するもの以外,わが国ではほとんど普及していないと言ってよい。そもそも,20世紀前半までイギリスやアメリカにおいても純粋経済損失に起因する賠償責任は認められない傾向にあったが,その後,裁判例の積み重なりで認められることが増え,それに伴って保険も普及してきた経緯がある。
一方,わが国においても企業活動の国際化に伴い,取引契約書にPI保険の付保を条件とされたり,インターネットを活用する事業活動により著作権・意匠権・商標権などが容易に国境を越えて権利を侵害するような状況が生じており,俄かにPI保険の必要性が認識され始めている。
以上のような背景を踏まえてPI保険の輪郭を明らかにし,今後,複雑化するビジネスの現場でこの保険が必要とされる展開を模索してみたいと思う。