2018 年 80 巻 3 号 p. 79-100
情報通信技術と大量のデータを活用したInsurtechの試みのなかで,運転挙動反映型自動車保険や健康増進型医療保険が,わが国においてもすでに導入されている。これらの保険商品は,モラルハザードと逆選択の緩和に貢献すると期待できる一方で,保険契約者の保険選択にどのような影響を与えるかは明らかにされていない。本稿では,これらの保険商品が保険選択に与える影響を,分離均衡モデルに基づいて分析を試みた。その結果,個々の保険契約のリスク水準を正確に反映した完全分離公正保険料のもとでは,すべての保険契約者が全部保険を選択するが,不完全なリスク評価による一部分離公正保険料が適用された場合には,低リスク者は限定された補償を伴う一部保険を選択することがわかった。また,リスク評価の費用が過大となり,それが付加保険料に反映された場合には,高リスク者は無保険であることを選択するおそれもあることが示唆された。