痛風と尿酸・核酸
Online ISSN : 2435-0095
総説 1
腫瘍崩壊症候群(Tumor lysis syndrome, TLS)と治療薬の変遷
森田 美穂子
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2025 年 49 巻 2 号 p. 115-122

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Translated Abstract

Tumor lysis syndrome (TLS) is a potentially fatal oncological emergency caused by rapid tumor cell lysis, leading to metabolic abnormalities such as hyperuricemia, hyperkalemia, and hyperphosphatemia. While traditionally associated with hematologic malignancies, recent reports indicate its occurrence in solid tumors and under new treatments.

Management strategies include prophylactic hydration and pharmacotherapy. Allopurinol, a xanthine oxidase inhibitor, suppresses uric acid production but carries a risk of xanthine accumulation in renal impairment. Febuxostat, a non-purine xanthine oxidase inhibitor, demonstrates superiority in renal impairment and has proven efficacy in preventing TLS. Rasburicase, a recombinant uric acid oxidase, promotes rapid uric acid reduction and is recommended for high-risk cases. The role of febuxostat in TLS management, particularly in hematologic malignancy patients, was evaluated. Significant reductions in serum uric acid levels were observed without serious adverse events, leading to results reflected in insurance coverage for TLS and Japanese guidelines. For rasburicase, which has rapid onset of action, considerations regarding TLS administration strategies were explored, including proposals for combination therapy for optimized treatment.

Further research is needed to evaluate long-term prognosis, enhance understanding of the disease, and develop treatments.

緒  言

腫瘍崩壊症候群(Tumor lysis syndrome: TLS)は,腫瘍細胞が急速に崩壊し,細胞内の内容物が血中に放出されることによって,高尿酸血症,高リン血症,高カリウム血症などの電解質・代謝異常を引き起こすがん治療における重篤な合併症である.本病態はOncologic emergencyの1つであり1),早期治療介入が予後に大きな影響を与える.特に急性リンパ性白血病や高悪性度非ホジキンリンパ腫などの造血器腫瘍において頻度が高く,通常は化学療法開始後24~72時間以内に発症する2).しかし,近年では分子標的薬や免疫療法などの治療選択肢の拡大に伴い,固形腫瘍や慢性進行性腫瘍でもTLSの報告が散見されるようになっている3)

TLSの定義と分類

TLSの診断と分類に関しては,2004年にCairoとBishopにより提唱された基準が広く用いられており,これをもとに2008年には米国臨床腫瘍学会よりTLSに関する予防と治療のガイドラインが発表された4,5).さらに2010年には,専門家パネルによるコンセンサスステートメントが発表され,より実臨床に即した分類が提示された6).本邦では,日本臨床腫瘍学会によりTLS診療ガイダンスが2013年に初版,2021年に第2版が発刊されており,国内の診療指針として広く用いられている7)

TLSは,laboratory TLS(LTLS)とclinical TLS(CTLS)に分類される.LTLSは,化学療法開始3日前から開始後7日までの間に,高尿酸血症,高カリウム血症,高リン血症のうち,2項目以上で基準値上限を超えた場合に定義される.CTLSは,LTLSに加えて,腎障害(血清クレアチニン値が施設基準の正常上限値1.5倍以上),不整脈,突然死,痙攣といった臨床症状を一つ以上認めた場合に定義される(表1).

Table1 Criteria of TLS derived from Reference 6

Laboratory TLS

(LTLS)

以下の臨床検査値が2項目以上で,化学療法開始3日前から開始後7日までの間に,基準値上限を超える.

●血清カリウム

●血清リン

●血清尿酸

Clinical TLS

(CTLS)

laboratory TLSに加えて,以下の臨床症状を1つでも伴う.

●腎障害(クレアチニン値の上昇:正常上限の1.5倍以上)

●不整脈

●突然死

●痙 攣

TLSの発症機序と臨床像

TLSは,腫瘍細胞の崩壊によって細胞内のプリン核酸,カリウム,リン酸が急速に血中に放出され,これが体内の代謝処理能力を超えることで引き起こされる1).プリン核酸は体内で分解され,最終的に尿酸に代謝されるが,急激な尿酸産生の増加により,腎臓における尿酸排泄の処理力を超えた際に,高尿酸血症が発生する8).さらに尿酸の尿細管内での析出により,急性尿酸性閉塞性腎障害が進行し,急性腎障害(acute kidney injury: AKI)を引き起こす9).また尿酸そのものにも腎血流低下や炎症誘発といった腎毒性があることが指摘されている10)

高リン血症によりカルシウムとの沈着が生じ,腎石灰化や低カルシウム血症が発生し,筋痙攣やテタニーの原因となる.また,高カリウム血症は心筋の電気的安定性を損ない,不整脈や心停止を来すことがある8)

TLSはこのように複数の代謝経路が連鎖的に障害されるため,早期の予測・予防・介入が極めて重要である11)

TLSのリスク因子と予防戦略

TLSのリスク因子は,患者背景,腫瘍の性質,治療法に分けて整理される.腫瘍関連因子には,高腫瘍量,増殖速度の速さ,治療への感受性の高さがあり,患者因子としては腎機能障害,脱水,乳酸アシドーシスなどが挙げられる2,6)

予防的なアプローチとしては,十分な水分補給,高尿酸血症に対する薬物治療(アロプリノール,フェブキソスタット,ラスブリカーゼ)を核とする.尿アルカリ化は推奨されなくなっている12)

治療薬の変遷:アロプリノール,フェブキソスタット,ラスブリカーゼ

1)アロプリノール

アロプリノールは古くから使用されているキサンチンオキシダーゼ阻害薬であり,ヒポキサンチンからキサンチン,尿酸への代謝を阻害する13)図1).尿酸産生を抑制する点では有効だが,すでに存在する尿酸には効果がなく,また代謝中間体であるキサンチンが蓄積し,腎障害を助長する可能性が指摘されている14)

Figure 1: The pathway of uric acid production through purine metabolism, along with the enzymes, metabolites, and drug targets involved.

XOR:Xanthine oxide reductase

2)フェブキソスタット

フェブキソスタットは,非プリン型のキサンチンオキシダーゼ阻害薬であり,腎機能に依存しない代謝経路を持つことから,腎障害例においても使用しやすい15).尿酸降下作用は用量依存的であり,ヒトでの薬物動態を踏まえた適正使用が求められる.

本邦においてフェブキソスタットが上市された際,TLSの予防に低用量(10 mg)投与が有用かつ安全であることを,世界に先駆けて報告した16).さらに,用量依存的な尿酸降下作用に基づき,前向き臨床試験にて中~高用量(40-60 mg)フェブキソスタットの有効性と安全性を確認し,薬物動態を基盤とした基礎研究と併せて報告した17)

その後,本邦の多施設共同試験では,アロプリノールに比べてフェブキソスタットの方が尿酸低下作用において非劣性,あるいは優越性を示し,副作用も少ないことが報告された15).また,FLORENCE試験においても同様の結果が示され,特に腎機能障害を有する症例においてフェブキソスタットの有用性が注目された18).これらの報告を基盤として,2015年に欧州で,2016年には本邦においてもTLSに対するフェブキソスタットの保険適応が追加取得された.さらに,2021年に公表された腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス第2版では,フェブキソスタットが中間リスク群における支持療法薬として推奨され,臨床的意義が確立された.

3)ラスブリカーゼ

ラスブリカーゼは,Aspergillus flavus由来のウリカーゼ遺伝子をSaccharomyces cerevisiae株に導入し,発現させた遺伝子組換え型ウリカーゼ製剤(recombinant urate oxidase)であり,尿酸をアラントインに酸化分解する酵素製剤である.ウリカーゼは,難溶性の尿酸を水溶性のアラントインに分解し,過酸化水素を生成する.しかし,ヒトではノンセンス変異によりウリカーゼが不活化されており,プリン代謝の最終産物は尿酸となる.ラスブリカーゼは既に存在する尿酸に直接作用して速やかにアラントインへ分解し,腎排出を容易にする(図1).そのため急速な尿酸低下が期待でき,腫瘍関連高尿酸血症に対するラスブリカーゼの有効性は98%とされており19),CTLSや中等度以上のTLSリスク例においては第一選択薬となる.

TLSマネージメントに関する臨床的検討

高尿酸血症治療薬としてフェブキソスタットが上市された際に,腎障害を伴いやすいTLSにおいて有効ではないかという臨床的疑問が生じた.まず中間リスクのTLSを有し,フェブキソスタット 10 mgが投与された造血器腫瘍患者 7 例を後方視的に検討した.

治療開始前平均血清尿酸値は6.4 ± 2.6 mg/dL から5日目で平均 4.7 ± 1.8 mg/dL に低下し,重篤な副作用なく経過できることを報告した16)図2).次いで,単施設前向き試験にてフェブキソスタット40-60 mgでの投与が腎機能障害を有する造血器腫瘍患者10名検討を行った.治療開始前血清尿酸値の中央値は8.0mg/dLから,5日目には3.3mg/dLに低下していた.また,化学療法翌日には血清ヒポキサンチンおよびキサンチンの濃度は上昇し,キサンチンの濃度がヒポキサンチンより高くなることを確認し,作用機序の理解を深めた17,20)図3).この中でフェブキソスタットは尿酸の生成を抑制するが,既に高尿酸血症を呈している場合には即効性に欠け,尿酸降下作用にも限界があるという問題点も見出し,リスク分類や血清尿酸値によるラスブリカーゼとの使い分けの重要性も言及した.

Figure 2: Changes in Serum Uric Acid Levels Following Administration of Febuxostat 10 mg (Reference 16, modified)

sUA: serum uric acid

Figure 3: Changes in Uric Acid Metabolites Following Administration of Febuxostat 40-60 mg

a) Time-Course Changes in Uric acid (Reference 17, modified), median ±SE 

b) Time-Course Changes in Uric acid (Reference 20, modified), median ±SE

ラスブリカーゼは即効性が期待される一方,高コストや過酸化水素による酸化ストレスにより溶血性貧血を引き起こす可能性のためG6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)欠損症への禁忌,またアレルギー反応への注意が必要である.そのため用量の調整や単回投与の工夫が進められている21,22).ラスブリカーゼの短期間(中央値4日,1-7日)投与で,治療開始前血清尿酸値平均値は10.4±4.5 mg/dLであった.ラスブリカーゼの投与が3日以内の患者では,治療7日目の尿酸値が1.9±1.8 mg/dL,4日以上投与した患者では1.0±1.3 mg/dLであった.ただし,短期間投与例では尿酸の再上昇傾向を認めるため,キサンチンオキシダーゼ阻害薬の併用療法が,迅速な血清尿酸値の維持管理に有用である可能性を見出した23)

TLS治療戦略

近年では,TLSの発症リスクを正確に評価し,患者ごとに適切な予防策を講じる「リスク・ストラティフィケーションに基づく予防戦略」が主流となっている.リスク層別化は腫瘍の種類・腫瘍量・治療への感受性・腎機能などをもとに行われ,低リスク・中等度リスク・高リスクに分類される6).米国では2023年にTLSの予防と管理に関するエキスパートコンセンサスガイドラインで,分子標的薬や免疫療法導入前のTLS評価や,非定型TLS,delayed TLSにも配慮したTLS管理が言及された24).ただし,XOR阻害薬としては,アロプリノールのみに言及されているため,本邦での診療とは異なる点がある.

本邦のTLS診療ガイダンス第2版では,低リスク患者では補液とモニタリングが基本であり,中等度以上ではフェブキソスタットの併用が考慮される(表2).高リスク患者あるいはすでに尿酸値が上昇している場合は,速効性のあるラスブリカーゼが推奨される5,7).また,急性腎障害がすでに進行している症例では,腎代替療法の介入時期がアウトカムに影響することが近年報告されており,「早期介入群」が有意に良好な転帰を示すことを示した25)

Table2 Risk‑stratified prophylactic recommendations derived from Reference 7

リスク 予 防 法(抜粋)

低リスク

(<1%)

・モニタリング(1日1回)

・通常量の補液

・必要に応じて尿酸生成阻害薬

中間リスク

(1-5%)

・モニタリング(8-12時間毎)

・大量補液

・尿酸生成抑制薬(アロプリノール,フェブキソスタット)

高リスク

(≧5%)

・モニタリング(頻回)

・大量補液

・尿酸分解酵素薬(ウリカーゼ,ラスブリカーゼ)

フェブキソスタットの限界と今後の課題

フェブキソスタットはその腎機能非依存性の代謝経路や投与の簡便さから,アロプリノールの代替薬として幅広く用いられているが,TLSにおける使用にはいくつかの課題がある.

第一に,作用発現にやや時間を要するため,急性発症リスクの高い例では対応が遅れる可能性がある15).第二に,過去に一部の心血管イベントリスク上昇が報告されたことから(CARES試験等),高リスク患者に対する慎重な使用が求められている26).ただしこの懸念はがん患者には必ずしも当てはまらないとの報告もある.また,TLSをフェブキソスタットでマネージメントした例で,キサンチン結晶が確認された報告27)もあり,キサンチン腎症のリスクにも注意が必要である.TLSにおいては尿酸だけでなくリン酸・カリウムなどの異常も問題となるため,尿酸管理単独では予防・治療戦略として不十分である.従って,TLS予防・治療は薬物治療単独ではなく,十分な水分管理,電解質補正,腎機能の頻回のモニタリングなど多面的な戦略が必要である2,6,11)

結  語

TLSはがん治療において,迅速な予測と介入が求められる重篤な腫瘍関連合併症であり,その管理には腫瘍特性や患者背景を踏まえたリスク評価に基づく多面的戦略が不可欠である.フェブキソスタットやラスブリカーゼなどの薬物治療は有効であるが,それぞれの特性や限界を理解した上で適切に使い分ける必要がある.

今後はより個別化された予防・治療戦略の確立が求められ,TLS発症リスクを予測可能とするバイオマーカーの確立や,より精緻なリスク層別化アルゴリズムの開発など,今後のTLS管理の高度化が期待される.

謝  辞

本研究の一部は,JSPS 科学研究費助成事業(若手研究B16K18935,若手研究B22K18935,基盤C25K10444)の助成を受けて実施されました.

COI

著者は本論文発表内容に関連して特に申告ありません.

References
 
© 一般社団法人日本痛風・尿酸核酸学会
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