日本草地学会誌
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草地農業体系におけるミネラルの循環 : 1.暖地鉱質土壌地帯における牧草地の生産量について
川越 郁男菊地 正武佳山 良正
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1977 年 23 巻 1 号 p. 18-29

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抄録

寒冷地火山灰土壌と暖地鉱質土壌のいずれを基盤にするかによって牧草の生産パターンが著しく異なったもの[figure]になる。そして牧草の生長解析などの成績はほとんど前者の場合に多く,しかも単播草地のものである。著者らは牧草地生態系における物質の流れを追求する目的をもって,まずその前段階にあたる暖地鉱質土壌の3種混播(イタリアンライグラス,オーチャードグラス,ラジノクローバ)草地の生産量を神戸大学農場(1970〜1971年)と名古屋大学農場(1974〜1975年)の2草地での成績を得たので報告する。1)暖地鉱質土壌の牧草地では,7〜9月にかけて極端に牧草群は衰退し,この失地に大量のメヒシバ,エノコログサ,イヌヒエおよびアオヒユが侵入し,寒地型牧草に代って暖地型1年生雑草が優占する様子を乾物重および積算優占度などによって示した。これらを詳細にみると年次進行による増減,あるいは刈取回数による増減が種によって異なる。2)地上部生産量のうち収量部分は,多肥(N 40g P_2O_5 20g,K 40g/m^2)の場合は4回刈区,5回刈区の収量差はあまりみられないが,雑草収量と枯草部分は刈取回数の多い方が少ない。しかし少肥(多肥の場合の半量)の場合は,5回刈りの方が年間収量が多く,雑草収量と枯草部分は刈取回数による増減をみていない。年間収量は多肥5回刈りで1762g/m^2少肥5回刈りで1547g/m^2であった。3)刈株重量は明らかに多肥区が高く,その季節的変化は夏季に減じ,晩秋に向って増量する。5回刈りの場合,地上部全重量に対する刈株重量比は夏と晩秋以外は約20%で,夏は高温のため生長が抑制されて,重量比は35〜45%に上昇,晩秋は低温のため生育が悪く,80%以上も占めるようになる。もし刈取りをしなければ,鉱質土壌の場合は1年生雑草の侵入をみるため,刈株重量は夏から秋に向って32.8〜15.2%に減少した。しかし"黒ボク土壌"では夏から秋にかけて,オーチャードグラスは10月下旬より増加し始め,11月に入って急速に増大する。ペレニアルライグラスも類似するが,オーチャードグラスより遙かに増加量が少ない。オーチャードグラスの地上部に対する刈株重量比は32〜48%で,鉱質土壌の場合のような直線的減少を示さず,漸増を示す。4)地下部重量の季節的変化については,オーチャードグラス単播草地を対象とした他の多くの成績と全く異なり,年に何回かの減量期がある。6月と10月の2回はあるようだが,草地の造成後年数,刈取回数,施肥量などに影響されると考えられる。少施肥条件下で刈取回数を増加させると地下部は減量の一途をたどり,翌春の再生に重大な影響を与える。また地下部重量は土性により著しく影響を受ける。鉱質土壌では地下部重量が小さいが,これはこの土壌固有の性質に由来するのか,これに繁茂し易い1年生雑草の侵入による二次的影響のためかは目下試験中である。5)牧草地のLitter集積量は,神戸大学農場の場合は211〜262g,名古屋大学農場の場合は273gを記録した。また刈取りをしない牧草地では,立枯状態41%,枯死脱落量41%で同量で,その他牧草の生草17%があり,枯死量は183.5g/m^2を記録した。6)暖地鉱質土壌の3種混播草地の純生産量は,この試験では少肥5回刈りで,1740.9g,収量1257.8g,収量率72.2%,多肥5回刈りでは純生産量2003.0g,収量1550.4g,収量率77.4%が1m^2当りの成績であった。

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© 1977 著者
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