抄録
暖地型イネ科牧草ダリスグラス,セタリア,グリーンパニックの初冬における植物組織内の無機成分(N,P,K)と貯蔵炭水化物(TNC)の水準および越冬に及ぼす秋の最終刈取り後の追肥の影響を検討するために,NPK,NK,N,P,K(要素量で各1kg/a),無施用(cont.)の追肥処理区を設けて,自然条件下でポット栽培した。Nを加えた追肥(NPK,NK,N)区では,秋刈取り後から初冬の草丈,茎数,乾重がP,K,cont.区よりも増大し,組織N含有率はやや高く,K含有率は明らかに高まる傾向が認められた。P含有率は,必ずしもP施用(P,NPK)で高まらなかったが,セタリア,グリーンパニックではP,K,cont.区の収量部位で高い傾向があった。N,P,Kの吸収量は,Nを加えた追肥処理区で多く,追肥量に対する吸収量の割合も同様に高かった。初冬のTNC含有率は,Nを加えた区で高い傾向があり,これとNまたはK含有率との間に,セタリアを除いて有意な正の相関関係が認められた。初冬の葉の霜害は,グリーンパニックで強く現われ,その程度は,収量部位(主に葉)中のTNC,Kの低含有率,Pの高含有率,高P/K比の区で強く,P,K,cont.>N>NPK,NK区の順で,N施用が耐霜性を高めた。越冬後の生存はダリスグラスのみで,その再生葉は,Nを含む処理区で多く,組織中TNC含有率との間に正の関係がみられ,秋季刈取り後追肥によるN,P,Kの吸収が再生長を高め,そして,これがその後のより低温となった時朝での炭水化物の再貯蔵を促進し,耐冬性獲得に良い影響をもたらすことを示した。セタリアでは明確な影響がみられなかった。