抄録
飼料用麦類の耐雪性に対する非構造性炭水化物の役割を明らかにするため,本実験では大麦とライ麦について耐雪性が強と弱の2品種を用いて,窒素施用量(4,8,16,24kg/10a)が生育と非構造性炭水化物(NSC)の蓄積ならびに雪害に及ぼす影響を比較検討した.越冬前の地上部乾物重は窒素施用量が増加するに伴い次第に増加し,一方,根乾物重は次第に減少した。NSC含有率は地上部,根とも窒素施用量の増加と伴に2次曲線的に顕著に低下した。この低下程度には種,品種間差があり,種間では大麦>ライ麦,品種間では耐雪性弱品種>同強品種であった。以上から,NSC蓄積に及ぼす窒素施肥の影響の程度に草種間差,品種間差があり,耐雪性が劣る草種,品種ほど窒素施肥に敏感に反応してNSC含有率が低下し易い特性を有していると考えられる。雪害は,大麦,ライ麦の各品種において,窒素施用量が増加するに伴い次第に顕著になった。さらに,品種と窒素施用量間に有意な交互作用があり,耐雪性強品種でも施肥量が最も多かった試験区(24kg/10a)では施肥量が最も少なかった試験区における耐雪性弱品種と同様,もしくはそれ以上の雪害を受けた。品種間における耐雪性の差は絶対的なものでなく,環境条件によって大きく変動すると考えられる。NSC含有率と雪害間にはこれまでと同様に負の相関があった。越冬前に蓄積されたNSCは貯蔵エネルギー源として積雪下の植物の生命維持に役立っていると考えられる。しかし,NSC含有率と雪害との回帰は耐雪性強と同弱の品種間で異なった。すなわち,NSC含有率が同一であっても品種によって雪害の程度が異なった。品種間における耐雪性の差は越冬前のNSC蓄積量のみで説明出来ない。耐雪性の解明には,生理,生態及び病理的側面からの総合的な検討が必要とされよう。