日本草地学会誌
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落葉広葉樹伐採跡地におけるシバ・オーチャードグラス型草地の成立過程に関する生態学的研究 : III.表面播種したシバ(Zoysia japonica STEUD)およびオーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)の茎数密度,地上部重および地下部重の経年変化に及ぼす施肥の影響
小川 恭男三田村 強福田 栄紀岡本 恭二
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1994 年 39 巻 4 号 p. 411-419

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抄録

野草植生が未発達な落葉広葉樹伐採跡地を対象として,シバ・オーチャードグラス型草地を不耕起造成する方法を生態学的見地から検討した。本試験では,造成時の施肥量を変えて多,少および無肥区を設け,シバおよびオーチャードグラス(Or)を1980年9月に表面播種した。各区1牧区とし,播種翌年から5年間にわたり毎年ほぼ一定の強度で放牧利用した。なお,各区における造成後の追肥量は,造成時の施肥処理と対応させて施用した。1)無肥区におけるOrの茎数は,少および多肥区より少なかったが,5年間を通じて約500本/m^2で安定的に推移した。これに対して,これに対して,少肥区のOrの茎数は経年的に漸減し,多肥区では2年目に急減した。2)無肥区におけるシバの茎数は,1年目には284本/m^2と少なかったが,経年的に増加して3年目にはOrの茎数と同様の524本/m^2になり,5年目には1216本/m^2に達した。これに対して,少肥区では5年間通じて12〜64本/m^2と少なかったが,5年目においてもシバは残存した。しかし,多肥区では2年目以降シバは消失した。3)無肥区における利用1年目の8月の地上部重および植被率は,各々38.7gDM/m^2および20%と低かった。しかし,5年目には各々272.3gDM/m^2および72%に達し,ともに少肥区と同レベルの数値になった。4)5年目の無肥区では,Orの緑部はシバのそれより少なかった。しかし,Orはシバに比べて茎重/葉重比が小さく,葉身が葡匐型のシバより高い位置に分布した。一方,両草種の地下部は同様の垂直分布様式をとり,重量的にはシバがOrより多かった。5)無肥区における8月可食草量(地上3cm以上の緑部重量)は,1年目には18.5gDM/m^2であったが,2年目以降は約60gDM/m^2に増加した。これに対して,少および多肥区では,5年間を通じてそれぞれ約80〜100gDM/m^2および約200〜300gDM/m^2で推移した。6)以上の結果から,無肥区の植生は,2年目から120AUD/haの牧養力があると推定され,3年目にはシバ・Or型草地になり,その後,次第にシバが優占化することが明らかになった。しかし,4年目以降の無肥区において,少肥区の水準で施肥を行えば,シバ優占化が抑止され,シバ・Or型草地の植生を長期間維持することが可能であると考えられた。

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© 1994 著者
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