本稿は東京都U区を事例地域に,障害者自立支援法施行後,精神障害者を対象とする作業所の新サービスへの移行状況とその利用実態に関する質的調査を行った.その上で,国家レベルの福祉施策の転換が地域レベルの障害者福祉サービス供給に及ぼした影響を,作業所という「ケア空間」の場が果たす役割に関連付けて考察した.その結果,移行先が就労継続支援B型のサービスに集中し,その一因に実際には就労支援に消極的な旧共同作業所が含まれており,「なんちゃってB」を自称していることがあると明らかになった.これらの事業者は,就労が困難な利用者のニーズに対応する一方で,経営基盤が安定する就労継続支援B型を選択して作業所の存続を図っている.自称「なんちゃってB」の出現は,障害者の自己責任を志向し,就労自立に傾倒した新制度に抵抗するための事業者の戦略であり,その結果旧共同作業所は,従前と変わらず精神障害者の居場所として機能している.