2013 年 86 巻 2 号 p. 115-134
本稿は,バングラデシュ農村部における「物乞い」と施しの慣行の実態を実証的に明らかにし,今日の「物乞い」をめぐる制度展開を批判的に検討した.本稿の対象地域の「物乞い」は,障害や高齢によって労働すること,また,家族の経済状況により扶養されることが困難な者である.障害を持つ男性の「物乞い」は,居住地から比較的遠い市場に行っていた.特に大規模な定期市は,彼らに特別な施しが与えられる場となっている.一方,女性の「物乞い」は社会的な規範により,徒歩で集落を中心にまわる者が多い.彼らは施しを与えられるだけでなく,交通費免除や場所提供など,「物乞い」をするための手助けも受けている.特に障害を持つ「物乞い」は,そうした優遇措置を受けやすい.「物乞い」と施しの慣行は宗教的,社会的な意味を持ち,地域社会の仕組みに埋め込まれている.しかし,体制側は経済的,社会的に周縁な領域として廃止しようとしている.