本稿では,韓国密陽市山内面におけるリンゴ直売所の形成要因を明らかにし,直売所の存在意義を考察する.山内面は,慶尚南道の有名な観光地であるオルムゴルに隣接し,韓国内では後発のリンゴ産地である.1973年に栽培が始まり,新しい販売方法として個々の零細なリンゴ農家による直売が急速に成長した.当初はリンゴ農家の自宅で直売をしていたが,1980年代後半から国道24号線沿いに直売所を開設し,オルムゴルリンゴという名称で販売するようになった.リンゴ直売所での対面接触を通じて農家と訪問客との人間関係が形成され,特に常連客になると農家との「人情的な結びつき」による信頼関係が形成された.この信頼関係は,常連客を媒介とした新規客の増加をもたらした.このように,リンゴ直売所の存在が,リンゴ産地としての競争力強化に重要な役割を果たしていることが明らかになった.