本稿では福岡県糸島市の二つの地区における海岸林保全団体を取り上げ,人工的に作られて維持・管理されてきた海岸林において,保全活動がどのように始まり展開してきたのかを,主体間ネットワークや活動理念に注目しながら比較検討した.地域行政の事業を契機として保全活動を始めた団体は,既存の地域共同体を基盤とした体制的な性質を持続させ,地域内の主体との連携を強めながら属地的な理念で活動している.一方,行政のマツ枯れ対策事業に対して懐疑的な立場の人々が始めたオルタナティブな保全活動の団体は,地域外の理念の近い主体と人的な連携を強め,普遍的な理念に基づいて活動している.しかし,かつての対抗的な運動とは異なり,問題意識を共有できる部分では理念の異なる行政などの主体とも連携する戦略的な行動を選択する点では,体制的な活動が支配的な今日の環境保全活動の状況において注目される.