地理学評論 Series A
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論説
滋賀県高島市朽木における行商利用の変遷と現代的意義
伊藤 千尋
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キーワード: 行商, 高齢者, 山村, 朽木, 滋賀県
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2015 年 88 巻 5 号 p. 451-472

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抄録

本稿の目的は,滋賀県高島市朽木における行商利用の変遷と現在の特徴を,利用者や利用する地域社会の視点から明らかにすることである.これを通じて,過疎・高齢化が深刻化する現代の山村において行商が果たす役割を考察する.若狭街道に位置する朽木は古くから行商人が行き交う地域であった.聞取り調査の結果,1950年代後半までには,行商人は物資の供給だけでなく,便利屋や機会の媒介者などのさまざまな役割を担い,朽木の地域社会を構成する一つの要素となっていたことが明らかになった.しかし,1960年代前半からの社会変化により,住民による行商の利用機会は減少し,行商人との関係性は希薄化した.一方,現在の行商は,高齢者にとっての補完的・代替的な買い物手段として機能している.また,利用者と行商人との関係性は雑談や相談のコミュニケーションの場として機能するほか,高齢者の自立した生活を豊かにする相互行為としての側面をもつと考えられる.

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© 2015 日本地理学会
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