地理学評論 Series A
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論説
地方都市の若手創業者にみる雇われない働き方・暮らし方の可能性──長野県・上田での調査から──
中澤 高志
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2020 年 93 巻 3 号 p. 149-172

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抄録

本稿では,長野県上田の若手創業者の実践を通じて,地方都市における雇われない働き方・暮らし方の可能性について検討する.自営業の減少という一般的傾向は,規模の大きなコーホートの引退によるところが大きく,青壮年層には「新しい自営業」と呼ばれる人々が一定程度存在する.上田の若手創業者の活動は,学校縁や場所が育むつながり,自然発生的な創業者同士のつながりなど,多様な契機によるマルチスケールの関係性に支えられており,利潤動機のみには回収しえない多面性を持つ.そうした活動は大きな経済的価値をもたらすものではないが,地域社会をより包摂的にし,芸術や文化,社会関係資本を涵養している点で,その意義は大きい.本稿の後半では,ポランニーの統合の諸形態とJ. K. Gibson-Grahamの多様な経済の概念に基づき,上田の創業者の諸活動が市場での交換以外の多様な経済に彩られていることを示し,その理論的・実践的意味について考察する.

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© 2020 公益社団法人日本地理学会
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