地理学評論 Series A
Online ISSN : 2185-1751
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93 巻, 3 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
論説
  • 中澤 高志
    2020 年 93 巻 3 号 p. 149-172
    発行日: 2020/05/01
    公開日: 2023/02/19
    ジャーナル フリー

    本稿では,長野県上田の若手創業者の実践を通じて,地方都市における雇われない働き方・暮らし方の可能性について検討する.自営業の減少という一般的傾向は,規模の大きなコーホートの引退によるところが大きく,青壮年層には「新しい自営業」と呼ばれる人々が一定程度存在する.上田の若手創業者の活動は,学校縁や場所が育むつながり,自然発生的な創業者同士のつながりなど,多様な契機によるマルチスケールの関係性に支えられており,利潤動機のみには回収しえない多面性を持つ.そうした活動は大きな経済的価値をもたらすものではないが,地域社会をより包摂的にし,芸術や文化,社会関係資本を涵養している点で,その意義は大きい.本稿の後半では,ポランニーの統合の諸形態とJ. K. Gibson-Grahamの多様な経済の概念に基づき,上田の創業者の諸活動が市場での交換以外の多様な経済に彩られていることを示し,その理論的・実践的意味について考察する.

  • 埴淵 知哉, 中谷 友樹, 上杉 昌也, 井上 茂
    2020 年 93 巻 3 号 p. 173-192
    発行日: 2020/05/01
    公開日: 2023/02/19
    ジャーナル フリー

    本研究は,個人の意識・行動・属性と人々が居住する地域環境の情報を併せもつ統計データ(地理的マルチレベルデータ)を,新たな調査法の組合せによって構築する試みである.東京都文京区の住民を対象に,回収数の最大化を意図したインターネット調査を実施した結果,すべての郵便番号界から一定数の回答が得られた.次に,Google Street Viewを用いて効率化した系統的社会観察を実施し,街路景観評価に基づく近隣特性の面的把握を行った.そして,これらを結合した地理的マルチレベルデータを分析し,近隣のミクロスケール・ウォーカビリティと住民の余暇歩行の間に有意な正の関連性がみられることを確認した.従来型の社会調査や国勢調査を利用したデータ構築が困難さを増す中,本研究が提案した方法は,地理的マルチレベル分析を近隣単位かつ広域的に実現しうる一つの有用な選択肢となる.

短報
  • 堀 和明, 清水 啓亮, 谷口 知慎, 野木 一輝
    2020 年 93 巻 3 号 p. 193-203
    発行日: 2020/05/01
    公開日: 2023/02/19
    ジャーナル フリー

    石狩川下流域には自然短絡で生じた小規模な三日月湖が多数分布する.本研究では調査者自身が容易に扱える,エレクトリックモーターを取り付けたゴムボートおよびGPS付き魚群探知機を用いて,5つの湖沼(ピラ沼,トイ沼,月沼,菱沼,伊藤沼)の測深をおこない,湖盆図を作成した.また,表層堆積物を採取し,底質分布を明らかにした.すべての湖沼で水深の大きい箇所は河道だった時期の曲率の大きな湾曲部付近にみられた.ピラ沼や菱沼,伊藤沼の湾曲部では内岸側に比べて外岸側の水深が大きく,蛇行流路の形態的特徴が保持されている.一方,トイ沼北部や月沼は最深部が外岸側に顕著に寄っておらず,全体的に水深や湖底の凹凸も小さい.このような特徴は埋積開始時期の違いを反映していると考えられる.すべての湖沼でシルトや粘土による埋積が進んでおり,特にピラ沼と菱沼の水深の大きな地点では有機物を多く含む細粒土砂が表層に堆積していた.

  • 谷本 涼
    2020 年 93 巻 3 号 p. 204-220
    発行日: 2020/05/01
    公開日: 2023/02/19
    ジャーナル フリー

    本稿では,大阪府高槻市を対象に,異なる送迎手段による保育施設利用の実態を反映してアクセシビリティの推計方法を改良し,現状分析と将来人口に基づくシナリオ分析を適用した.その結果,2018年時点の対象地域においては,保育施設の需要と施設立地との間に,相当の空間的ミスマッチがある.とりわけ1~2歳では,市内中心部の駅周辺での供給不足が顕著である.また,公立幼稚園の認定こども園化による保育施設の増強は,一定の効果を有するが,現在の需要を完全に満たすには及ばない.一方,地域的な需給格差を緩和する上で,送迎保育は有効な補助的対策である.そして,将来発生しうる児童数の減少と保育需要の増加に対しては,未収容児童数の増加を招かぬよう,保育サービスの柔軟な供給調整が必要である.これらの知見から,本稿で提案したアクセシビリティ指標とシナリオ分析の手法の有効性も確認できた.

  • 川添 航
    2020 年 93 巻 3 号 p. 221-238
    発行日: 2020/05/01
    公開日: 2023/02/19
    ジャーナル フリー

    本稿では,茨城県南部に居住する在留フィリピン人の日常生活とカトリック教会との関係に着目し,宗教施設が有する社会関係の形成・維持の役割について解明することを目的とした.国内のフィリピン人人口構成をみると,1980年代から2000年代に来日し,国際結婚を通じ定住した女性層と,2010年以降に技能実習生として来日した若年層の2類型に区分できる.技能実習生は宗教的な目的に加え同国出身者との社会関係の構築を目的として教会に訪れている.また,国際結婚を経験したフィリピン人女性の多くは,定住の過程で転居・転職を繰り返していたため分散居住傾向にあり,地域社会や職場などにおいて社会関係を維持することが困難であった.そのため,カトリック教会で形成されたフィリピン人同士の社会関係は依然として重視されており,定住以降も宗教施設は在留フィリピン人社会における結節点として機能している.

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