歴史的交通路における地形からみた経路選択の要因について,先行研究では全体距離や最高点標高を示す程度であり,定性的な議論であった.本稿では,道路の地形特性に起因する歩行時の生理的負担度によって,複数の経路を定量的に比較評価する方法を提案する.地理院地図や数値標高モデルを用いて対象経路の距離や標高,勾配を計測し,設定条件での歩行速度や所要時間を算出する.生理的負担度の算出には運動生理学の知見を参照した.適用事例として,江戸時代の東海道箱根峠東坂で湯本から箱根に至る湯坂道,旧街道,温泉道の3経路を比較した.道路の地形特性に起因する生理的負担度は,旧街道が最も小さく,湯坂道は勾配が大きく,温泉道は距離が長いことで大きな値になった.旧街道が選択された一要因が,生理的負担度の違いによることを示唆する結果であり,本方法は,生理的負担度の評価という視点から,歴史的交通路選択の議論に寄与する可能性がある.