近年の地名研究では,地名の由来や語源の探求だけでなく,地名の使用を場所形成のプロセスの中に置いてとらえる見方が盛んである.しかし,こうした潮流は地名分析の幅を広げた一方で,地名が複数の意味を持っていることが見過ごされているという問題点ももつ.本論文では地名学のさらなる発展を目指す立場から,地名を多様な主体による多様な意味づけの対象としてとらえ,それらの意味の総体としての地名が果たしている機能について考察した.具体的には,大阪府の千里ニュータウンで展開される地域活動に着目し,その関係主体によって「千里」という地名が多義的で曖昧な存在としてとらえられていることを示した上で,その曖昧さがそれぞれの主体の間での活動に対する志向の差を埋め,結束させる役割を果たしているということを指摘した.