地理学評論
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多良岳火山における山崩れ
市瀬 由自
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1960 年 33 巻 10 号 p. 515-528

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抄録

今回の諌早水害は局地性豪雨を誘因として多良岳火山地域に発生したもので,豪雨の性質と山体を構成する地質岩石および地形性質とが関係して,山崩れの性質や土砂流出などに木きな影響を与えている.
山崩れは多良岳の中下半部を構成する紫蘇輝石安山岩および塊泥岩よりなる地域に多く発生している.その形態は湧水点を頭とした「おたまじやくし」状をなしており,崩落土層は一般に浅くなつている.そして山崩れは山体よりの湧水による地下水型の特性を示している.山崩れと斜面形との関係をみると,一部は浅い谷状の凹地より発生していて,地下水の一部が集水するのに便利な地点より湧水があつて山崩れが起つたことを示しているが,その多くは地表の集水などの少ないと思われる平滑な斜面の一部より発生している.
山崩れは山体を構成する紫蘇輝石安山岩と塊泥岩との水に対する物理的性質が異なることより発生したもので,成因的には4つに分類することができる.
(1) 紫蘇輝石安山岩よりなる平坦面の侵蝕過程における山崩れこれは上部の紫蘇輝石安山岩が下部の塊泥岩に比べて相対的に降雨の滲透が速いので,滲透の相対的に遅い塊泥岩との境界附近より滲透水が湧出して山崩れを起したものである.
(2) 塊泥岩および塊泥岩中に安山岩質熔岩流が介在する地域における山崩れこれは (i) 塊泥岩中に安山岩質熔岩流が存在し,安山岩質熔岩流の部分では一般にち密で堅いので,滲透水は塊泥岩中に滞水し,谷壁斜面より湧水するものである. (ii) は塊泥岩中の斜面より滲透水が湧出したもので,塊泥岩がその中に介在する安山岩質熔岩よりも水を含み易く,容易に滲透し易いことに基くものである.
(3) 古い山崩れ上述した (1), (2) の原因によつて発生した古い山崩れ堆積物が再崩壊したものと,本支流の合流点附近に形成されている押出し地形とに分けられる.
(4) 漢岸侵蝕これは急激な出水によつて斜面上の崖錐堆積物を崩落せしめている場合と,かつての洪水堆積物である低位段丘を侵蝕している場合とがある.
山腹斜面上の崩落物質や斜面形態および河流沿いにみられる押出し地形,洪水堆積物などの諸性質より,この地域においては古い時代から同様な性質,規模の災害が繰返されて来たことが判る.そして今回の災害もまた過去における災害と同じ現象を示したものと言える.

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