抄録
1) 日本における資本制漁業の発展は,一方において零細沿岸漁家を漁業労働者として再編成していく.この過程を全機構的にとらえるには,漁業発展の不均等な地域構造から考えられねばならない.小論では,近代資本制漁業導入直前の明治末年における日本漁業の生産性の状態と,現在におけるそれとの比較から,発展の地域差の把握を試み,その過程を通じて漁業労働者の析出について考察した.だがこれはあくまで漁業生産力にもとずく定量的側面の分析に止まるので,地域的展開の諸様態は,さらに地域的諸条件を加味した検討が必要である.この両側面から漁業労働者析出村について検討してみると,中央日本においては次の二類型が認められる.
中央目本太平洋岸にみられる「東海型」は,かつて地先海面で営まれていた自営漁業が,漁港の発展によつて統合吸収されて,その根拠地へ漁業労働者を多数送つている出労形態で,漁民層の分解はかなり進み,先進地域の型を示している.これに対して中央日本日本海岸にみられる「北陸型」は,かつて北洋漁業へ積極的に出漁していた漁民が,現地で資本制漁業の被傭へと転化した出労形態で,漁民層の分解は遅れ後進地域の型を示している.
2) 最近の漁業労働者の移動現象は,全層的・専業的・周年的な賃労働者化した漁民の移動と解すべきである.したがって家計補助の目的をもつて,漁閑期に行なう労働力販売(いわゆる出稼)とは,質的に異なりつつあることを認めうる.