抄録
1) 三大労働市場における労働力の吸引はそれぞれ個性をもつて形成されている.東京市場は関東から東北日本,大阪市場は近畿から西南目本に有力な供給圏をもち,愛知市揚は近接県と西南日本と東北日本に分散的に吸引圏を形成している.しかし,需給のアンバランスと種々な条件がからみ合つて全国的な流動を促し,複雑化した地域分割・競合地域を生じている.
2) 原則的には距離的・交通的・歴史的・経済的関係が流動の方向を決定している.しかし,原則を破るものとして需給間の遠隔性や社会的・心理的なものや労務者の種別・性別による労働の市揚選択性などがある.
3) 日本中央部は三大労働市場の競合地域で複雑した地域分割を行つている.東京市場と愛知市場の接触点は新潟・長野・静岡を結ぶ線であり,大阪市場と愛知市場の接触点は福井・滋賀・三重を結ぶ線で鋭く摩擦している.北陸地方は三大市場が接触し石川・福井においては大阪が優勢,新潟・富山においては東京が優勢である.この地域区分を決定したものは原則的に距離と交通関係が根本的であり,これが歴史的伝統をつくつて需給問に縁故関係を生じ,社会的心理的なものと需要地における吸引内容が流動方向を決定している.最近この地域に工業化の顕著な県ができ,三大労働市場に影響を与えつつある.特に愛知市場の打撃が最大である.
4) 流出の高低は第一次産業人口の多少とほぼ一致するが,その地域の第一次産業構造の差異によつて更に軽重を呈する.地域の賃金格差はその地域の所得格差とほぼ一致するもので,不可測であるがその地域の貧困性が流動のメカニズムを形成し,低きか高きに流れるという流動形態をとつている.
5) 本文はこれ等の流動現象を地域的に調べてみた.