地理学評論
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猪・鹿の捕獲量の地理的意義—近世岡山藩の場合—
千葉 徳爾
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1963 年 36 巻 8 号 p. 464-480

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抄録

1) 野生大形哺乳類の生態系は,人類の生態系と複合しているので,その変動を検討することによつて,人類のOekumeneの構造をとらえる手がかりとすることができると予想される.
2) 資料として岡山藩の記録類を用いた.この藩では固定した猟区における長期の捕獲頭数記録があり,その環境となる山林の状況も比較的によく資料が整理されている.今回はそのうち猪と鹿との消長をとりあげた.
3) 固定猟区の植生・岩石・地表状態・山地面積などを検討し,それらと猪および鹿の生態を関係づけ,その結果を基準として,岡山藩内各地の資料を時期別に検討した.
4) 近世前期には藩が特定猟区を独占することがなく,各所で随時に狩をおこなつたが,はじめは鹿が多く猪は少なかつた.藩の森林保護政策の成果があがると共に,猪の棲息量がまして,鹿は相対的に減じた.ことに農外収益のました地域では,農業経営形態の変化が従来草地だつた手飼場の林地化傾向を進め,そこに茂みを好む猪がすみついたとみられる。
5) 前期の終りころから,藩が特定の山林を猟区として住民の使用を禁ずるようになり,ここに猪や鹿がすみついて作物を荒すため,附近農村ではその駆除がのぞまれるようになる.これは人口の増加と耕地の拡大によつて山林が浅くなつたために,狩を行事としてつずけるためには特定猟区を限定維持する必要がおこつた結果であろう.地域全般の野獣棲息密度は低下したようである.
6) 近世後期には,藩の狩は特定猟区にのみ限定され,その中では鹿が増加してくる.捕獲頭教の記録は精密になるが,地域全般の野獣棲息状態をうかがう資料としては,甚だ不充分なものとなつた。

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