地理学評論
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多摩川流域における武蔵野台地の段丘地形の研究-段丘傾動量算定の一例-(その2)
寿円 晋吾
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1965 年 38 巻 10 号 p. 591-612

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抄録
筆者は,地形学的観察から,武蔵野・立川・青柳・拝島の各段丘面を形成した青梅より下流の多摩川は現在の多摩川と同じく平衡河川であったと考えた.
平衡河川において,或る地点の河床高度をH, 起点からその地点に至る距離をx,積分定数をγとすれば,河床の距離-高度曲線はS. Shulitsにより,
H=AekxH>0, A>0, k<0 (1)
で表わされる.これをxで微分すると,河床勾配Sと距離xとの関係を表わす河床の距離-勾配曲線は,
S=σekx S<0, σ<0, ………(2) で表わされる.一方,平衡河川の河床礫の申央粒径Gと距離xとの関係を表わす距離-粒径曲線はH. Sternbergにより,
G=aebx G>0, a>0, b<0, ………(3) で表わされる. (2) を変形し(1)に代入すれば,勾配Sと中央粒径Gとの関係を表わす粒径-勾配曲線は
S=λGμ λ<0, μ>0………(4) で表わされる.ここで(3)は元河床にも適用されると仮定すれば,距離xにおける元河床の勾配〓0と,同地点の元河床礫の中央粒径〓0との関係は
0=λ〓0μ 〓0<0, 〓0>0 (5) で表わされる.ところで,距離xにおける元河床礫の中央粒径は,同距離における段丘礫の中央粒径〓に等しいとみなすと,
0=〓=a'eb'x 〓>0, a'>0, b'<0………(6)で表わされる. (6)を(5)に代入すると,
00'ekox σ0'<0, k0'<0………(7) をえる.これは元河床の距離-勾配曲線を表わす。距離xにおける売河床の高度を〓0,積分定数をγ0'とすれば, (7)を積分すると,
0=A0ek'ox0'0>0, A0'>0, k0'<0………(8) をえる.これは元河床の距離-高度曲線を表わすが,積分定数の値は式からは求まらない.従ってその縦断形は知られるが・その高度は決定しがたい.
筆者は以上により,元河床の縦断形と段丘面の縦断形との比較から,段丘面の上流と下流との相対的垂直変位を算定する方法と,更に各段丘面が河床時代の上位段丘面の縦断形配置を知り,当時の各段丘面について,それぞれ上流と下流との相対的垂直変位を算定する方法とを考え,これらの方法を武蔵野段丘と立川段
丘とに適用した.その結果前記した台地の運動と同様の運動が算定された.
現在,わが国の第四紀研究者の中に,立川段丘面の勾配が現河床や武蔵野段丘面の勾配にくらべ急であるのは,立川期の低海水準に基因する現象と解釈する人がある.しかしながら,海水準の低下のみによって新たに生ずる海岸平野が緩勾配で,沿岸の海底がすこぶる遠浅である場合を考えると,この解釈には疑問を生ずる.筆者は本研究から,武蔵野台地の立川段丘面の急勾配は主として地盤運動によるものと解釈する.
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