地理学評論
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三重県を除く沿海地域における真珠養殖の展開(概報)
小栗 宏
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1965 年 38 巻 5 号 p. 308-322

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抄録
真珠養殖業は戦後世界的な真珠需要の増大とそれに答えた三重県漁場の密殖状況が他府県への進出を刺戟し,各地の沿岸漁業の衰退がこれを受入れ易くしたことによって,裏日本では石川県以西,(鳥取を除く),裏日本では神奈川県以西(大阪府を除く)全臨海府県に普及した.しかも各地への開拓はすべて三重県の業者の手によるといってよい.しかし新しい漁場での養殖が軌道に乗ってぐると,やがて地元漁民の進出意欲を刺戟し,地域によっては三重業者の対抗勢力となってくる場合も生じた.そのような地域はいわゆる共同体的規制の強い地域や県当局による地元漁保護の強い地域に多い.また養殖の自然条件が暖かい水面に有利であるとはいえ,良質な珠を得ようとする場合には一貫養殖を可能とする水域でも養殖期間を通じて移動することなく定置することが必ずしも有利とは限らない.したがって採苗から浜上げまで各種の段階に分れた漁場が生じ得る。これが技術面の不熟練と事業の投機性に勇気をもち得ず,伝統漁業に執着する地元民の進出をにぶらせていることも否めない.経営形態にもこれが影響して,三重業者が独占している地域も生じた。また地元業者の進出する場合は危険負担能力のある資力をもつ者がまず進出する場合が多いが,零細業者がまず進出している地域もあり,この場合は漁協自営や共同経営の形のとられているものが多い.
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