抄録
西南日本低地の極相林である常緑広葉樹林の,関東低地における分布の限界と,その気候的要因を考察し,残存林の組成や構造を調査した.残存林の分布は,神奈川・千葉・茨城各県の沿岸丘陵と,神奈川・東京・埼玉・栃木・茨城各県の山麓に多くみられ,群馬県には非常にすくない.また関東平野の中心部にもほとんどない.この内陸への分布限界は,寒さの指数-10°C線とほぼ一致し,この値は,数地点の残存林の垂直分布限界により,たしかめられた.野外調査の結果,いちじるしい優占種がみられず,種類組成にも,各林型の要素がまじり,基底面積も小さい林分が多いことから,極相林として十分に成熟し安定した状態に達していないことが指摘された.また群馬県の平野部と栃木県の那須扇状地は,温度的には分布の許容範囲にあるが,強い季節風の影響をうけて,原植生としての常緑広葉樹林を欠くことを推定した.